事業の成果

教授:西田 基宏

教授:西田 基宏

「心筋可塑性の制御機構解明を目指して」

自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所) 教授
西田 基宏
〔お問い合わせ先〕E-MAIL:nishida*nips.ac.jp
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研究の背景

 心臓は全身に酸素(血液)を供給する筋肉ポンプです。脳や末梢組織が必要とする血液量を常に維持するため、高血圧や大動脈狭窄などの血行力学的負荷がかかっても、心臓は圧負荷に打ち勝つべく自身を大きく(肥大)し、ポンプ機能を維持しようとします。しかし、圧負荷が長く続くと、負荷が軽減されても代償的な心臓の形態構造変化(リモデリング)は解消されず、やがて心筋の形態と機能のバランスが破綻し、心不全を引き起こします。こうした心筋の不可逆的なリモデリングを「心筋可塑性」と呼びます(図1)。私たちは、心筋可塑性を制御する分子を同定し、心不全治療につながる新しい医療戦略基盤を構築することを目標に基礎研究を進めています。

研究の成果

 心筋細胞膜上には細胞の伸展を感知し、これに適応するための情報を細胞内に伝達するセンサータンパク質分子が存在します。私たちは、げっ歯類の心筋細胞を用いた実験から、電位非依存性のCa2+透過型チャネルtransient receptor potential canonical(TRPC)3が機械伸展刺激によって活性化され、活性酸素の生成を引き起こす分子実体であることを見いだしました(図2)。TRPC3チャネルは活性酸素生成酵素であるNADPH oxidase(Nox2)と複合体を形成することでNox2を安定化し、Nox2由来の活性酸素が心筋の線維化シグナルを活性化すること、およびTRPC3阻害が圧負荷誘発性の心筋拡張機能障害(心不全)と線維化を抑制することを、マウスを用いて明らかにしました。

今後の展望

 TRPC3-Nox2複合体を新たな分子標的にすることにより、心不全治療薬の新たな戦略を構築できることが期待できます。今後は、TRPC3-Nox2相互作用を阻害しうる内因性の生体物質を同定し、心不全になりにくい柔軟な心筋細胞を作る方法を開発したいと考えています。

参考文献

  1. Kitajima N., Numaga-Tomita T., Watanabe M., Kuroda T.,Nishimura A., Miyano K., Yasuda S., Kuwahara K., Sato Y.,Ide T., Birnbaumer L., Sumimoto H., Mori Y. and Nishida M. TRPC3 positively regulates reactive oxygen species driving maladaptive cardiac remodeling. Sci. Rep. 6, 37001(2016). doi: 10.1038/srep37001.
  2. Numaga-Tomita T., Kitajima N., Kuroda T., Nishimura A., Miyano K., Yasuda S., Kuwahara K., Sato Y., Ide T., Birnbaumer L., Sumimoto H., Mori Y. and Nishida M. TRPC3-GEF-H1 axis mediates pressure overload-induced cardiac fibrosis. Sci. Rep. 6, 39383(2016). doi: 10.1038/srep39383.
図1  心筋可塑性の修復を主眼とした治療戦略

図1  心筋可塑性の修復を主眼とした治療戦略

図2  TRPC3-Nox2相互作用によるNox2安定化および機械的伸展刺激
によるTRPC3からのCa2+流入を介した活性酸素の生成。TRPC3
チャネルは活性酸素依存的に微小管の脱重合を誘発し、GEF-H1/
Rhoシグナルを介して線維化を誘導する。

図2  TRPC3-Nox2相互作用によるNox2安定化および機械的伸展刺激 によるTRPC3からのCa2+流入を介した活性酸素の生成。TRPC3チャネルは活性酸素依存的に微小管の脱重合を誘発し、GEF-H1/Rhoシグナルを介して線維化を誘導する。

関連する科研費

2013-2015年度基盤研究(B)「TRPC3/6複合体チャネル形成による心筋ホメオスタシス制御機構の解析」