事業の成果

准教授:松田 怜

准教授:松田 怜

「一過性遺伝子発現法を用いた植物利用型有用タンパク質生産における環境調節」

東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授
松田 怜
〔お問い合わせ先〕TEL:03-5841-5356

研究の背景

 現在、ワクチンや抗体医薬品などとして用いられる医療用の有用タンパク質の多くは、ウイルスを接種した孵化鶏卵や、微生物・昆虫・哺乳動物由来の細胞の培養によって生産されています。ところで近年では、植物体内で有用タンパク質を生産する方法が注目されています。
その中でも、一過性遺伝子発現法(図1)は、短期間で大量の有用タンパク質を比較的安価に生産できる方法として期待されています。これは、植物に後天的に遺伝子を導入して、一過的に有用タンパク質を蓄積させるものです。この方法では、組換え生物の野外への流出防止のため、環境調節可能な閉鎖型施設内で植物を栽培します。有用タンパク質生産に適した植物の栽培環境は、従来の収量(植物体の重量)を高めるための環境とは異なると考えられます。しかし、どのような環境が適しているのかについては十分にはわかっていません。

研究の成果

 本研究の目的は、有用タンパク質生産のための閉鎖型施設内の環境調節の方法を確立するために、栽培環境が有用タンパク質生産量に及ぼす影響を明らかにすることです。植物にはタバコ属の一種であるベンサミアナタバコ(図1)を、有用タンパク質にはインフルエンザワクチンであるヘマグルチニン(HA)を主に用いています。HAを細胞内の小胞体に蓄積させる場合、遺伝子導入後の気温を25℃にすると、導入前の成育には適した気温にもかかわらず、葉の一部が壊死し、導入後6日目の葉内HA含量は気温20℃よりも著しく少なくなることがわかりました(図2)。また、遺伝子導入前に施用する液肥中の窒素濃度を大幅に高めると、成長を抑制する一方、導入後の葉内HA含量を増大させることができ、収穫後の抽出・精製プロセスのコスト削減に寄与すると考えられました。一過性遺伝子発現法を用いた有用タンパク質生産では、遺伝子導入前後それぞれにおいて、従来の植物栽培とは異なる環境調節を行うことが有効であるといえます。

今後の展望

 現在は、その他の環境要素の影響や、HA以外の有用タンパク質への影響について調べています。また、葉内の有用タンパク質含量を反映する植物の生体情報を非破壊かつ非接触でモニタリングする技術の開発にも取り組んでいます。この技術は、適切な収穫時期の決定などの生産管理に役立つと期待されます。これらの研究成果を組み合わせて、効率的な植物利用型有用タンパク質生産を実現することを目指しています。

図1  一過性遺伝子発現法を用いた植物利用型有用タンパク質生産のプロセスの概略および用いられるベンサミアナタバコ。

図1  一過性遺伝子発現法を用いた植物利用型有用タンパク質生産のプロセスの概略および用いられるベンサミアナタバコ。

図2  遺伝子導入後の気温が導入後6日目のベンサミアナタバコ葉の外観および葉内ヘマグルチニン(HA)含量に及ぼす影響。

図2  遺伝子導入後の気温が導入後6日目のベンサミアナタバコ葉の外観および葉内ヘマグルチニン(HA)含量に及ぼす影響。

関連する科研費

2011-2012年度若手研究(B)「植物を利用した短期間・大量インフルエンザワクチン生産における環境調節に関する研究」
2014-2016年度若手研究(A)「クロロフィル蛍光を利用した植物葉内の外来タンパク質含量変動モニタリング手法の開発」