事業の成果

教授:門松 健治

教授:門松 健治

「脳神経系における糖鎖の作動原理の解明」

名古屋大学 大学院医学系研究科 教授
門松 健治
〔お問い合わせ先〕E-MAIL:kkadoma*med.nagoya-u.ac.jp
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研究の背景

 糖鎖は核酸(DNA、RNA)、タンパク質に並ぶ第三の生命鎖として、さまざまな生命活動に関与します。しかしその機能と構造の多様性ゆえに、糖鎖の作用機序の解明は難しいものでした。この問題を克服する重要な手がかりとして、私たちは、糖鎖の中に神経機能を制御する特定配列(機能ドメイン)が内包されていることを見いだしました。一方、糖鎖がシナプス可塑性や神経回路再編を介して記憶や学習などを制御することが明らかになりつつありました。
 そこで、私たちは新学術領域「神経糖鎖生物学」(略称)を立ち上げ、これまでにわが国において蓄積された世界に誇る糖鎖の知見と新しい解析法を最先端の神経研究に融合させました。これにより、糖鎖機能ドメインから受容体、下流の分子動態、統合的な神経機能に至る制御機構を解明し、新しい生命科学の起点にすることを目指しました(図1)。本領域は計画班9班、公募班前期21班、後期22班から成り、領域内での共同研究を軸に研究を展開しました。この科研費NEWSでは、本領域の成果をご紹介します。ホームページ(http://shinkei-tosa.net/)もご参照ください。

研究の成果

 本領域は、神経における糖鎖の作動原理と生物学的意味について、単独の研究ではたどりつくことのできなかった新しいコンセプトをもたらしました。例えば、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸の長大な鎖の中に、神経可塑性(図2)や軸索再生を制御する機能ドメインを発見しました。さらに、筋ジストロフィーの原因分子ジストログリカンの構造決定(哺乳類で初めてリビトールリン酸という物質が使われることが判明、図3)、軸索ガイダンス分子として働くリゾフォスファチジルグリコシドの発見など、これまで予想できなかった新たな糖鎖構造を明らかにしました。
 加えて、糖鎖が生理的、病的場面で重要な役割を担う多くの事例を示すことができました。例えば、眼優位性可塑性、筋ジストロフィー、Ngly1 欠損症、アルツハイマー病、ニューロパチー、精神疾患、Golgi ストレスなどと糖鎖の関係が示されました。

今後の展望

 糖鎖はこれまで筋ジストロフィー、がんなど広範な疾病の発生や進展に関わることが知られ、インフルエンザ治療薬のタミフルや抗体医薬品の活性増強など医療の現場で応用されてきました。本領域の成果は、今後、基礎生物学はもとより、広範な疾病の分子基盤の理解と治療法の開発に多大な影響を与えると期待されます。

図1  新学術領域「神経糖鎖生物学」の目指す研究

図1  新学術領域「神経糖鎖生物学」の目指す研究

図2 神経可塑性への糖鎖の重要な関与

図2 神経可塑性への糖鎖の重要な関与
眼優位性可塑性はマウスで生後14~30日(ヒトでは生後5歳頃まで)という子供でのみ見られる神可塑性です。大人になるとPNNという成分で神経細胞が囲まれて可塑性がなくなります。PNNは4Sという硫酸化されたコンドロイチン硫酸(CS)が主成分です。PNNで囲まれた大人の神経細胞で、幼児型CS(6S硫酸化)を発現させると神経可塑性を蘇らせることができ、CSの構造が神経可塑性を制御することが分かりました。これは、北川裕之班員と小松由紀夫班員の共同研究の成果です(Nat Neurosci, 2012)。

図3 筋ジストロフィーの原因分子ジストログリカン糖鎖の全構造解読

図3 筋ジストロフィーの原因分子ジストログリカン糖鎖の全構造解読
これまで不明だった筋ジストロフィーの原因分子ジストログリカン糖鎖の全構造を解読し、哺乳類で見られなかったリビトールリン酸という糖鎖ユニットが使われることが分かりました。これは金川基班員と萬谷博班員の共同研究の成果です(Cell Rep, 2016)。

関連する科研費

2011-2015年度新学術領域研究(研究領域提案型)「統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明」(略称:神経糖鎖生物学)