事業の成果

教授:益田(中屋) 晴恵

教授:益田(中屋)晴恵

「地殻・水圏におけるヒ素の循環と天然由来のヒ素汚染地下水形成」

大阪市立大学 大学院理学研究科 教授
益田(中屋) 晴恵
〔お問い合わせ先〕E-MAIL:harue*sci.osaka-cu.ac.jp
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研究の背景

 1990年代半ば頃から、世界各地でヒ素を含む地下水による健康被害が報告され始め、潜在的な被害者も含めると数千万人規模の患者が発生する前代未聞の地下水汚染になりました。中でも、世界で最初にヒ素汚染地下水の被害者が報告されたインド西ベンガル州と隣接するバングラデシュは汚染が深刻です。汚染は、地質学的に新しい時代の堆積物中に閉じ込められていたヒ素が、地下水中へ溶け出す自然現象によるものでした。ヒ素がどのような形で堆積物中にあるのか、またどのような条件で地下水へ溶け出すのかを明らかにすることは、ヒ素汚染対策に必須です。そのため、アジア諸国を中心として世界中で精力的に研究が始まりました。

研究の成果

 バングラデシュのヒ素汚染地下水が出現する地域で、ヒ素の原因物質を探し、ヒ素が地下水中へ溶け出す化学反応過程を明らかにしました。ヒ素汚染が出現するのは、井戸の深度が20〜30mまでの地下水です。採取した地下水の化学分析や、掘削により採取した堆積物を分析したところ(図1)、堆積物中の緑泥石にヒ素が含まれていることを発見しました(図2)。
 高温多湿なバングラデシュでは、土壌中の生物活動が活発で、地下水環境が嫌気的になりやすく、地下水が還元的になると、酸水酸化鉄(鉄を含む鉱物が加水分解してできた鉄さび)に吸着されたヒ素が溶け出すと、これまで考えられてきました。この仮説は間違ってはいませんが、もとのヒ素がどこにあったのかという問いには答えていません。私たちの発見は、この地域のヒ素を含むもとの鉱物はケイ酸塩鉱物であることを示した最初の報告です。また、好気的環境で緑泥石の分解が起こることから、好気的な地表からの水の涵養(地表の水が地下に浸透し、地下水になること)がヒ素汚染地下水形成の最初の過程であることを明らかにしました。

今後の展望

 今後もヒ素汚染対策に関連する活動に関わり続けるとともに、基礎科学者として、地殻と地殻内・地球表層部の水圏において、ヒ素がどのように循環しているのか、全容を明らかにしたいと考えています。地球表層部と内部の物質の行き来を追跡するためには、プレートの沈み込み帯周辺部での移動過程を明らかにすることが重要です(図3)。そこで、現在、河川水と河床堆積物、深海底堆積物、深成岩などを用いて研究を進めています。

図1 バングラデシュでの掘削調査風景

図1 バングラデシュでの掘削調査風景
後方は手作業で行うコア掘削。手前では掘削された試料についての記載をしている。ヒ素汚染地下水の帯水層の堆積物は、化学的風化作用のあまり進んでいない青灰色の砂で、雲母類と緑泥石を多く含んでいる(右上)

図2  微小蛍光エックス線分析装置により緑泥石から検出されたヒ素

図2  微小蛍光エックス線分析装置により緑泥石から検出されたヒ素
青から赤に向かってヒ素濃度が高くなる。緑泥石に接触する角閃石からはヒ素が検出されない。Spring-8のビームラインBL37-XUで分析を行った

図3 プレート収束帯におけるヒ素循環のモデル

図3 プレート収束帯におけるヒ素循環のモデル
ヒ素は岩石の地質学的循環に伴って地圏と水圏を移動する。還元環境では気体になりやすく、水に溶けやすい性質があることから、マグマの活動や水の移動を伴う現象(例えば熱水活動や鉱床形成など)でしばしば観察される。
現在、橙色の楕円で囲った3カ所で研究を進めている。

関連する科研費

2000-2002年度基盤研究(B) 「ヒ素汚染地下水の形成に関わる堆積物中のヒ素の化学態と生物活動の関係」
2003-2006年度基盤研究(B) 「バングラデシュの沖積平野におけるヒ素汚染地下水形成機構の解明」(2004年度から研究代表者交替)
2009-2012年度 基盤研究(A) 「アジア諸国の新生代堆積物中のヒ素汚染地下水の形成過程の統一的理論の構築」