事業の成果

准教授:山田 豊和

准教授:山田 豊和

「スピン偏極走査トンネル顕微鏡による原子・分子・ナノ磁性体の磁気構造解明」

千葉大学 大学院融合科学研究科 准教授
山田 豊和
〔お問い合わせ先〕E-MAIL:toyoyamada*faculty.chiba-u.jp
(注)メールアドレスは、「@」を「*」に置換しています。

研究の背景

 IoT( Internet of things)に代表される情報社会を支えているのは微小な磁石です。情報は、磁石のNS極を利用して「1」と「0」の2進法で保存されます。手のひらサイズの情報端末に、より多くの情報を詰め込むためには、1個の磁石とその磁石の向きを読み取る素子をいかに極限まで小さくできるかが重要です。そこで、私たちは、スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)という、原子レベルで磁石のNS極、つまり1個1個の原子のスピン偏極度ベクトルを可視化できる顕微鏡の開発と、これを用いた研究を行ってきました。2010年度に千葉大学に赴任して自分の研究室をスタートし、科研費の補助を受けながら、2016年度までに4台の超高真空STM装置を自作開発することができました。

研究の成果

 図1にスピン偏極STMの測定モデル図を示します。STMは探針で試料表面をなぞるようにして、その表面形状を原子レベルで観ることができる顕微鏡です。スピン偏極探針を使うと、試料探針間に流れるトンネル電流はスピン偏極します(図1上)。探針スピンと平行な試料スピン領域では電流がより多く流れ、反平行(双方のスピンが180度反対を向いている)な領域では電流が減ります。この微小な変化をとらえて画像化することにより、高分解能で磁気イメージングが行えます。図1ではMn(001)薄膜の実例を示します。表面形状像(100×100nm2)から、この領域には7から10層目までが積み重なっている様子が確認できます。同じ場所で得たスピン偏極度ベクトル分布像を見ると、8層目と10層目が暗く見えています。つまり、偶数層のスピンは探針スピンに対して反平行、奇数層のスピンは平行と分かります。Mnはバルクでは反強磁性ですが、薄膜になると1原子層内では強磁性に結合し、層間では反強磁性に結合していることが分かるのです。
 さらに、STMの面白いところは単に見るだけではなく、探針を用いて試料を動かしたり触れたりできる点にあります。例を図2に示します。基板上に吸着した1個のFe原子(輝点)を動かし「N、S」を、またCO分子(黒点)で「笑顔」を描いてみました。このSTMマニピュレーションとスピン偏極STM技術を組み合わせて、図2下に示すような、基板上に吸着した1個の有機分子の伝導測定に成功しました。その結果、1個の有機分子も新たな磁気素子材料として有効だと分かりました。

今後の展望

 スピン偏極STMを用いて、有機分子やナノ磁石といったnmサイズの材料が、新たな情報磁気デバイス材料として有効かどうかの研究をしてきました。これらの基礎的な研究成果が、来たるべき情報爆発社会と持続可能社会の両立に必要不可欠と考え、今後も研究に精進してまいります。
Homepage:http://adv.chiba-u.jp/nano/yamada-upload/

図1  スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)。Mn
(001)薄膜試料上をスピン偏極した磁性探針が走査する。探針と試料の双方がスピン偏極していれば、スピン偏極トンネル電流が検出できる。赤・黄玉は1
個の原子、矢印はスピン偏極度ベクトルを示す。この試料表面で得た表面形状像と同時に得たスピン像を下に示す(100×100nm2)。

図1  スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)。Mn (001)薄膜試料上をスピン偏極した磁性探針が走査する。探針と試料の双方がスピン偏極していれば、スピン偏極トンネル電流が検出できる。赤・黄玉は1個の原子、矢印はスピン偏極度ベクトルを示す。この試料表面で得た表面形状像と同時に得たスピン像を下に示す(100×100nm2)。

図2  STM探針による原子・分子マニピュレーション。基板上に吸着した単一Fe原子を動かし“N”と“S” を、またCO分子を操作して“笑顔” を作成した例を示す。マニピュレーション技術を応用して、スピン偏極した磁性探針を磁性基板上の分子に接触させ、1個の分子を介する磁気伝導を直接計測できる。

図2  STM探針による原子・分子マニピュレーション。基板上に吸着した単一Fe原子を動かし“N”と“S” を、またCO分子を操作して“笑顔” を作成した例を示す。マニピュレーション技術を応用して、スピン偏極した磁性探針を磁性基板上の分子に接触させ、1個の分子を介する磁気伝導を直接計測できる。

関連する科研費

2010-2011年度研究活動スタート支援 「スピン偏極STM探針接触法による単一フタロシアニン分子を介するスピン伝導測定」
2011-2012年度若手研究(A) 「単一磁性金属ナノクラスター表面での新規磁気電気結合の解明と制御」
2013-2014年度挑戦的萌芽研究 「スピン偏極STMによる単一ナノ分子グラフェンの磁気構造解明」
2013-2017年度 新学術領域研究(研究領域提案型) 「スピン偏極STMによる単一分子の磁気伝導特性の解明」
2015-2016年度 挑戦的萌芽研究 「STMによるMgO基板上の単一Fe原子の巨大磁気異方性の原理解明」