事業の成果


教授:田島 公

教授:田島 公

「禁裏文庫の調査・公開・研究の画期的な進展と、公卿学の系譜の再検討」

東京大学 史料編纂所 古代史料部 教授
田島 公
〔お問い合わせ先〕デジタル画像の閲覧に関して…史料編纂所図書閲覧室 FAX:03-5841-8425

研究の背景

 京都御所の東北隅にある東山御文庫(ひがしやまおぶんこ)は、皇室の文庫で禁裏(きんり)文庫とも呼ばれ、日本古典研究には欠かせない平安初期から幕末までの宸翰(しんかん)や近世前期の書写本・原本を中心にした古典籍(こてんせき)・古文書(こもんじょ)等の御物(ぎょぶつ)約6万点が収蔵されています。しかし、勅封(ちょくふう)のため宮内庁侍従職(じじゅうしょく)が管理をし、秋の曝凉(ばくりょう)期間に宮内庁書陵部(しょりょうぶ)が撮影したマイクロフィルム等が書陵部図書寮(としょりょう)文庫閲覧室で公開される他は、特に許された研究者が調査するにすぎませんでした。また、近世禁裏文庫やその蔵書目録の成立過程も明確ではありませんでした。

研究の成果

 東山御文庫本は、①1998-2000年度基盤研究(A)の成果で、2002年から東京大学史料編纂所閲覧室でもマイクロフィルム等を公開しましたが、近世禁裏文庫やその蔵書目録の研究を基にデジタル化を進めた②2002-05年度基盤研究(A)と③2007-11年度学術創成研究、及びそれを継承した④2012-16年度基盤研究(S)の研究成果として、2016年10月より史料編纂所閲覧室情報端末PCからアクセスできるHi-CATPlus(ハイキャットプラス)(東京大学史料編纂所所蔵史料データベース改良版)で、約26万のデジタル画像を初公開しました。これは研究史上、画期的なことで、勅封の函・番号順に並べ替えた画像には内容情報(メタデータ)も付加され、古代・中世史研究の史料利用環境を大きく改善しました。
 また、天皇家を中心とした前近代公家社会が育み維持してきた禁裏・公家文庫収蔵古典籍の伝来を通じて、前近代知識体系の歴史的特質を解明しました。例えば、平安時代以降、公卿(くぎょう)は宮中の政務・儀式、恒例や臨時の行事を円滑に進めるため先例や作法を子弟に教え授け、これを「公卿学」と呼んでいますが、禁裏・公家文庫の写本の中に摂関家(せっかんけ)以外の公卿が拠り所とした源有仁(みなもとのありひと)の儀式書や祖父後三条(ごさんじょう)天皇撰の儀式書『院御書(いんのおふみ)』を見いだし、有仁の説(花園説(はなぞのせつ))の系譜を解明して、従来検討されていた藤原基経(もとつね)から道長(みちなが)まで、さらに鎌倉前期の五摂家分裂に至るまでの摂関家を中心とした公卿学の系譜も再検討し、摂関家のみならず、天皇や非摂家公卿も含めた平安・鎌倉期の公卿学の系譜の全体像を再構築しました。これらの研究も含め、関連する科研費の研究成果は田島公編『禁裏・公家文庫研究』1~6(思文閣出版2003・06・09・12・15・17年。6は近刊予定)等に収録されています。

今後の展望

 すでにHi-CATPlusでは、科研費③・④により、書陵部所蔵の伏見宮(ふしみのみや)家本・桂宮(かつらのみや)日記・九条家本・柳原(やなぎわら)家本・壬生(みぶ)家本・白川家日記・平田家日記・三条西(さんじょうにし)家本・続群書類従(ぞくぐんしょるいじゅう)、陽明(ようめい)文庫所蔵の近衛家本、西尾市岩瀬文庫所蔵の柳原家本、山口県立山口図書館所蔵萩藩明倫館旧蔵の今井似閑(いまいじかん)本など約72万コマのデジタル画像が史料編纂所閲覧室で公開されています。特に「世界の記憶」に登録された藤原道長の自筆日記『御堂関白記(みどうかんぱくき)』を含む陽明文庫所蔵近衛家本約5万コマの高精細デジタル画像は国内で最初の公開ですが、今後は大型科研費の獲得により、上記の書陵部所蔵本を中心にメタデータ付きの禁裏・公家文庫収蔵史料100万画像のWeb公開や、東山御文庫本のさらなる高度利用化を目指しています。

公開中の東山御文庫本の画像目録
http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/kodai/higashiyama201610.pdf

京都御所東山御文庫外観(宮内庁蔵)

京都御所東山御文庫外観(宮内庁蔵)

Hi-CAT Plusの利用画面1Hi-CAT Plusの利用画面2

Hi-CAT Plusの利用画面

関連する科研費

1998-2000年度基盤研究(A)「東山御文庫を中心とした禁裏本および禁裏文庫の総合的研究」
2002-2005年度基盤研究(A)「禁裏・宮家・公家文庫収蔵古典籍のデジタル化による目録学的研究」
2007-2011年度学術創成研究費「目録学の構築と古典学の再生―天皇家・公家文庫の実態復原と伝統的知識体系の解明―」
2012-2016年度基盤研究(S)「日本目録学の基盤確立と古典学研究支援ツールの拡充―天皇家・公家文庫を中心に―」