事業の成果

教授:柳田 素子

教授:柳田 素子
日経サイエンス提供

「線維芽細胞の多彩な機能と臓器修復に果たす役割の解析」

京都大学 大学院医学研究科 腎臓内科学 教授
柳田 素子
〔お問い合わせ先〕TEL:075-751-3860 E-MAIL:kidney2011*kuhp.kyoto-u.ac.jp
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研究の背景

 線維化は進行した腎臓病に共通する所見ですが、そのメカニズムには謎が多く残されています。線維化を担うmyofibroblastの由来についても諸説がありましたが、私たちは、腎臓の線維芽細胞がmyofibroblastへと形質転換することで線維化を引き起こすことを見出しました(図1の枠内)。腎臓の線維芽細胞は赤血球産生に必須のホルモン、エリスロポエチンを産生する内分泌細胞でもありますが、形質転換の際にその機能が失われ、腎性貧血を引き起こすことも見出しました(J. Clin Invest 2011)。
 この結果により、腎線維芽細胞は多彩な機能をもち、可塑性に富むと想定されましたが、その制御機構や臓器修復における役割は明らかではありませんでした。

研究の成果

 私たちは、独自の遺伝子改変動物を作成し、腎臓の機能単位であるネフロンの一部である近位尿細管細胞の障害が、周囲の線維芽細胞の形質転換を起こし、それに伴って腎性貧血や線維化を引き起こすことを証明しました(図1、J. Am Soc Nephrol 2016)。
 一方で、高齢者では腎臓病が治りにくいことが知られていますが、その原因は未解明でした。私たちは、高齢マウスの腎臓を障害すると、腎臓内にリンパ節のような「三次リンパ組織」が形成し、炎症が遷延することで修復が遅くなることを見出しました。さらに、腎臓の三次リンパ組織では、多彩な形質を獲得した線維芽細胞がケモカインを産生し、リンパ球を呼び寄せるなど、重要な働きを担っていました(図2、JCI Insight 2016)。加齢に伴う三次リンパ組織形成はヒトの高齢腎でも観察され、種を越えて共通した現象であると考えられました。

今後の展望

 この結果により、線維芽細胞の形質転換のきっかけが、尿細管細胞とのクロストークであることが明らかになりました。このクロストークを担う分子を同定することで、線維化に対する理解が深まり、創薬へとつながることが期待できます。
 三次リンパ組織の発見および解析によって、線維芽細胞のさらなる多彩な機能が明らかになりました。今後は、線維芽細胞が加齢に伴ってこのような機能を獲得し、三次リンパ組織を形成する分子基盤を解明したいと考えています。加齢に伴う三次リンパ組織の形成は、高齢者の腎臓病の回復を促進する創薬標的として有望です。
 線維芽細胞の多彩な機能とその制御機構を解明することができれば、この細胞がつくり出す微小環境が臓器修復・維持に果たす役割の一端が明らかになるのではないかと期待しています。

図1  線維化と腎性貧血を引き起こす線維芽細胞の形質転換は、近位尿細管障害によって誘導される 線維芽細胞がmyofibroblastへと形質転換することが線維化と腎性貧血の原因であること(枠内)、この形質転換は近位尿細管障害によって誘導されることを見出しました(赤矢印)。

図1  線維化と腎性貧血を引き起こす線維芽細胞の形質転換は、近位尿細管障害によって誘導される
 線維芽細胞がmyofibroblastへと形質転換することが線維化と腎性貧血の原因であること(枠内)、この形質転換は近位尿細管障害によって誘導されることを見出しました(赤矢印)。

図2 加齢に伴う三次リンパ組織と多彩な線維芽細胞群
 加齢に伴う腎臓内の三次リンパ組織形成には、レチノイン酸合成能やケモカイン産生能など、多彩な形質を獲得した線維芽細胞が必須です。発達した三次リンパ組織ではB細胞領域も形成されますが、その維持にも線維芽細胞が重要な役割を果たしています。

図2 加齢に伴う三次リンパ組織と多彩な線維芽細胞群
 加齢に伴う腎臓内の三次リンパ組織形成には、レチノイン酸合成能やケモカイン産生能など、多彩な形質を獲得した線維芽細胞が必須です。発達した三次リンパ組織ではB細胞領域も形成されますが、その維持にも線維芽細胞が重要な役割を果たしています。

関連する科研費

2014-2016年度基盤研究(B)「腎臓の線維化とネフロン修復の分子基盤の包括的解明」