事業の成果

教授:加藤 晃一

教授:加藤 晃一

「複雑な糖鎖の機能を精密な分子構造解析を通じて解き明かす」

自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 教授
加藤 晃一
〔お問い合わせ先〕TEL:0564-59-5225 E-MAIL:kkatonmr*ims.ac.jp
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研究の背景

 自然界に存在するタンパク質の半数以上は糖鎖修飾を受けているといわれており、抗体医薬をはじめとするバイオ医薬品の大部分はこうした糖タンパク質です。糖タンパク質を構成する糖鎖は、タンパク質の物理化学的な性状を規定するとともに、その生物活性にも大きな影響を与えます(図1)。一方、脂質を修飾する糖鎖は、細胞表層でクラスターを形成し、それがウイルスの感染やアルツハイマー病の発症に密接に関わっています。しかしながら、糖鎖はその構造の複雑さゆえに、分子科学的な理解が進んでいませんでした。

研究の成果

 本研究では、物理化学、有機化学、分子・細胞生物学などを統合した学際的アプローチを通じて、糖鎖の機能発現の仕組みを分子の立体構造の観点から解き明かし、さらに新たな機能をもった分子の設計や創生に展開することを目指しました。
 糖鎖の3次元構造は、水溶液中では絶え間なく揺らいでいます。そこで私たちは核磁気共鳴(NMR)分光法と分子シミュレーションを基盤とする方法論を構築し、ダイナミックな糖鎖の姿を明らかにすることに成功しました(図2)。特に、抗体のFc領域については、糖鎖と一体となったタンパク質に由来するNMR信号をすべて帰属し、糖鎖構造の変化がタンパク質分子の3次元構造変化に及ぼす影響を原子レベルで捉えることが可能になりました。
 その結果、細胞内で作られたタンパク質が正しい立体構造を獲得して細胞外へ運ばれる仕組みや、抗体がFc受容体との結合を介して免疫機能を活性化する仕組みにおいて、糖鎖がどのような役割を果たしているかが具体的にわかるようになりました。また、クラスター化した糖鎖を用いて、糖鎖が神経幹細胞に対して特異的な細胞死を誘導する効果を見出し、さらにアルツハイマー病の発症にかかわるタンパク質を捉えて精密な構造解析ができるようになりました。

今後の展望

 糖鎖のダイナミックな立体構造の変化を捉え、その働きをコントロールすることは、新たなバイオ医薬品の開発をはじめ次世代創薬の基盤になることが期待されます。さらに、糖鎖がタンパク質の運命を決定する分子機構を探求すれば、生命体を構成する分子集団が、動的な秩序の形成を通じて、高次の機能を発現する仕組みを理解するための重要な手がかりが得られると考えています。

図1  抗体のFc領域とFc受容体との複合体の立体構造。糖鎖(球で示す)はタンパク質間の相互作用を調節し、生物活性をコントロールしている。

図1  抗体のFc領域とFc受容体との複合体の立体構造。糖鎖(球で示す)はタンパク質間の相互作用を調節し、生物活性をコントロールしている。

図2  NMR法と分子シミュレーションによって明らかになったダイナミックな糖鎖の立体構造(左)と、X線結晶構造解析によって明らかになった糖鎖とタンパク質(ERGIC-53)の相互作用様式(右)。

図2  NMR法と分子シミュレーションによって明らかになったダイナミックな糖鎖の立体構造(左)と、X線結晶構造解析によって明らかになった糖鎖とタンパク質(ERGIC-53)の相互作用様式(右)。

関連する科研費

2012-2014年度基盤研究(A)「糖鎖認識系を標的とする創薬を目指した複合糖質機能の構造基盤の解明と分子設計」
2013-2017年度新学術領域研究(研究領域提案型)「生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現」
2014-2015年度挑戦的萌芽研究「機能性ネオ糖脂質クラスターを利用した神経幹細胞の幹細胞性制御」