事業の成果

教授:菅野 了次

教授:菅野 了次

「電池を固体に-超リチウムイオン伝導体の開発」

東京工業大学 物質理工学院 教授
菅野 了次
〔お問い合わせ先〕TEL:045-924-5401 E-MAIL:kanno*echem.titech.ac.jp
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研究の背景

 電池の開発に携わる研究者の夢は、「電池を固体で作る」ことで、「全固体電池の実現」でもあります。電気自動車やプラグインハイブリッド車、スマートグリッドが社会に浸透するには、電気を蓄える電池の性能が鍵を握っています。電池の高エネルギー化が進むと、安全性や信頼性がますます重要になり、可燃性の有機溶媒の電解液とは異なった材料で電池を作りあげる必要があります。
 このような背景のもとで、固体の中をイオンが高速で動き回ることのできる超リチウムイオン伝導体を探し出し、電池の電解質に用いる試みが古くからなされてきました。しかし、これまでの物質のイオン伝導率は室温で10-3 S cm-1程度で、液体電解質より1桁以上低い値でした。私たちは、2011年に液体なみの値をもつ物質を発見しました。この発見を契機として、固体電池の研究が飛躍的に進展しています。

研究の成果

 超イオン伝導体Li10GePS12(LGPSと記述)は、室温ではじめて液体のイオン伝導率である10-2 S cm-1を超える値(12 mS cm-1)を示しました(図1)。この成果をもとに、私たちは2016年にLGPS型構造で最高のイオン伝導率(25 mS cm-1)を持つLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3や、リチウム金属負極の電解質としても利用できるLi9.6P3S12を見出しました。LGPS型Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3の結晶構造を図2に示します。M(Si)S4、PS4四面体とLiS6八面体が稜を共有して一次元的に連なった鎖状構造を作り、その鎖が隣の鎖とPS4四面体を通じて連結して三次元の骨格構造を形成しています。リチウムはこの構造の中に入り込んでいます。
 超イオン伝導体LGPSを固体電解質に用いた固体電池は、優れた充放電特性を示しました。さらに、正極や負極との接合部やセパレータの材料の組み合わせを工夫すると、リチウムイオン電池より容量や出力特性が向上することもわかり、電池を固体にする利点がはじめて明らかになりました。

今後の展望

 これまで電池とは見なされてこなかった固体電池が、ようやく日の目を見ようとしています。科研費のもとで行った長期間にわたる物質探索研究の末にたどり着いた新物質の発見から、デバイスの開発へ新たな一歩を踏み出すことができました。これからの研究ステージは、実用化に向けた大きな山場になります。電池を固体化すると、電池のパッケージングの自由度や安定性・信頼性が向上し、大容量化と高速充放電が可能になります。このような固体電池の利点を生かした電池の開発に取り組んでゆく予定です。次世代電池の全固体への歩みが加速することを期待しています。

図1  超リチウムイオン伝導体のイオン伝導率の温度変化

図1  超リチウムイオン伝導体のイオン伝導率の温度変化
各種イオン伝導体とLGPSのイオン伝導率の温度変化を併せて示す。リチウムイオン電池に利用されている有機電解質の値と、室温近辺ではほぼ同じ程度の値を示していることがわかる。2016年に報告した超イオン伝導体Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3はさらに高い値を示す。

図2  最高のイオン伝導率を持つLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3の結晶構造とイオン伝導経路

図2  最高のイオン伝導率を持つLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3の結晶構造とイオン伝導経路
左に三次元の骨格構造を、右にMEM解析の結果明らかになったリチウムの存在領域を示す。リチウムイオン伝導経路が三次元であることを示している。左図にはリチウムイオンの熱振動の様子も併せて示す。リチウムイオンは非常に大きく熱振動しており、リチウムが超イオン伝導に関与していることがわかる。

関連する科研費

2006-2009年度基盤研究(A)「新規イオニクスデバイスの開発に向けた基礎研究-電気化学界面制御と物質開拓」
2010-2012年度基盤研究(A)「次世代蓄電デバイス開発にむけての基礎研究-全固体蓄電デバイスの開発」