事業の成果

教授:西森 秀稔

教授:西森 秀稔

「量子アニーリングによる量子コンピュータの基礎理論」

東京工業大学 理学院 教授
西森 秀稔
〔お問い合わせ先〕TEL:03-5734-2488 E-MAIL:nishimori*phys.titech.ac.jp
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研究の背景

 たくさんの選択肢の中から一番良いものを選ぶことは、誰もが日常的に経験しています。例えば、大きなショッピングセンターでいろいろな物を買うとき、予算、持ち帰りの手間、家に置くスペースなどの制約を考えながら、限られた時間の中で最善の選択をしたいというような状況です。これは「最適化問題」と呼ばれています。最適化問題は、日常生活だけでなく、産業でも重要な役割を担っています。例えば、人工知能を作るための機械学習の技術は、多くの場合、最適化問題です。最適化問題は、構成する要素の数が大きくなると急激に難しくなるため、高速アルゴリズムの開発が盛んに行われてきました。

研究の成果

 私たちは、2つの状態が同時に存在するという量子力学の不思議な性質を応用して、最適化問題を高速で解く「量子アニーリング」方式を提案し、その優れた特性を明らかにしました。コンピュータの情報処理の基礎になっているのはビットという単位です。1つのビットは0か1のどちらかの値を取ります。コンピュータの中では、ビットがたくさん並んで数を表しています。普通のPCは64ビット機です。64個の0と1の列で数を表して、数を足したり引いたりしながら複雑な処理をしています。
 ところが、量子コンピュータでは、1つのビットが0と1の2つの状態に同時になれるのです。1量子ビットで2つの状態ですので、2量子ビットでは4つ、3量子ビットでは8つと倍々ゲームで状態の数が増えていきます。このように、量子コンピュータではきわめてたくさんの状態を同時に処理して高速性を発揮します。
 量子アニーリングは、最適化問題を量子ビットの組み合わせで解くためのアルゴリズムです。私たちが科研費の研究成果として提出した量子アニーリングの理論に基づくコンピュータが、カナダのベンチャー企業D-Waveで開発され、GoogleやNASAが導入したことは世界中で大きく報道されました。私たちは、現在、量子アニーリングの特性をさらに伸展させる研究を進めています。

今後の展望

 D-Waveだけでなく、Googleやアメリカの国家プロジェクトでも量子アニーリングマシンの開発が進められています。量子アニーリングの強みと弱みをきちんと把握することによりさらに強力な次世代マシンが開発されれば、産業界だけでなく日常生活でも量子力学を応用した処理が行われる時代がくるかもしれません。

図1 D-Waveマシンの外観

図1 D-Waveマシンの外観

図2  中心にある緑の部分が量子アニーリングのチップ。約1センチメートル四方の中に科研費の成果である量子アニーリング理論が超伝導回路として組み込まれている。

図2  中心にある緑の部分が量子アニーリングのチップ。約1センチメートル四方の中に科研費の成果である量子アニーリング理論が超伝導回路として組み込まれている。

関連する科研費

1997-1999年度基盤研究(C)「量子アニーリングの基礎理論」
2014-2018年度基盤研究(B)「量子アニーリングにおける非断熱効果と誤り訂正」