事業の成果

准教授:川口 綾乃

准教授:川口 綾乃

「細胞周期と発生過程の「時の流れ」の関係を解明」

名古屋大学 大学院医学系研究科 准教授
川口 綾乃
〔お問い合わせ先〕 名古屋大学 大学院医学系研究科 細胞生物学分野
TEL:052-744-2030 E-MAIL:akawa*med.nagoya-u.ac.jp

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研究の背景

 哺乳類の大脳が発生する過程では、神経前駆細胞とよばれる未分化な細胞が分裂を繰り返し、発生時期に応じた種々のニューロンが生じます。この神経前駆細胞は、発生の時期が進むにつれて、ふるまいを変化させます。まず、自分自身を増やす増殖性の分裂から、ニューロンなどの分化細胞を生み出す分裂を行うように変化し、生じるニューロンは、発生初期には下層ニューロン、後期には上層ニューロンになります。このような発生の時期に応じたふるまいの変化を説明する、すなわち、神経前駆細胞が発生時刻を知るための「タイマー」のしくみはよくわかっていません。これまでは、細胞周期の進行度合いや細胞分裂の回数をカウントしているのではないかと漠然と考えられていました。

研究の成果

 実際に細胞周期の進行を止めると、神経前駆細胞の発生時刻に応じた変化はどうなるのでしょうか。私たちは、まず、発生時刻の異なる個々のマウスの神経前駆細胞の遺伝子発現を解析し、前駆細胞の分化状態には関係なく、発生時刻の進行に伴って発現レベルが変化する「時間軸遺伝子」を見つけました。次に、発生途中のマウスの脳の中で神経前駆細胞の未分化性を維持しながら、細胞周期の進行を止めたところ、驚いたことに、これら「時間軸遺伝子」の発現は、発生時刻の進行に伴って、引き続き変化していることがわかりました。また、細胞周期を一定期間停止させた後に、停止を解除すると、神経前駆細胞は正しい発生の時刻に応じたタイプのニューロンへ分化することも観察されました(図)。これらの結果から、細胞周期の進行を止めても、神経前駆細胞の中で発生時刻を刻むタイマーは進んでいることがわかりました。さらに、単一の神経前駆細胞の培養実験の結果などから、個々の神経前駆細胞の中にある仕組みと細胞外からの調整が協調して、発生時期に応じた正しい神経前駆細胞のふるまいを決めていることが明らかになりました。

今後の展望

 これらの研究は、細胞周期の進行と、発生による「時の流れ」の関係という基本的な生物学的疑問に答えるものです。また、本研究で得られた前駆細胞の遺伝子発現情報は、神経前駆細胞から特定の種類の細胞が生じる機構の解明に役立つことが期待されます。今後は、「タイマー」の実態と、細胞外からの調整の具体的な仕組みを明らかにしたいと考えています。

図

図  未分化性を維持しながら神経前駆細胞の細胞周期の進行を止めても、発生の時刻に合わせて神経前駆細胞の性質は変化する。

関連する科研費

2010-2012年度基盤研究(C)「発生期の脳組織中で神経幹細胞の維持と分化を制御する機構の解明」
2011-2012年度新学術領域研究 (研究領域提案型)「発生時期による神経幹細胞の分裂パターンの変化を制御する機構の解明」
2013-2016年度基盤研究(C)「神経幹細胞の分化に際し速やかに発現変動する遺伝子の脳組織形成への関与」