事業の成果

助教:星野 由美

助教:星野 由美

「減数分裂の制御機構解明と動物生産への応用」

広島大学 大学院生物圏科学研究科 助教
星野 由美
〔お問い合わせ先〕 TEL:082-424-4213(研究室) E-MAIL:hoshimi*hiroshima-u.ac.jp
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研究の背景

 哺乳動物の卵子は、卵巣内で形成され、減数分裂を行いながら受精可能なステージ(第二減数分裂中期)まで成熟し、排卵されます(図1)。しかしながら、近年、加齢などの要因から成熟の途中で減数分裂が停止し、受精に至らない事例が数多く報告されています。しかし、実際に若齢マウスから採取した卵子を体外で培養すると、ノンストップで第二減数分裂中期まで進行するため、成熟過程で減数分裂が停止する現象を体外で再現し、その原因を特定することは容易ではありません。卵子の成熟過程において重要なのは、減数分裂で染色体が正しい数に分配されることであり、そのためには、染色体の分配装置である紡錘体が正しく機能しなければなりません。生殖細胞である卵子における紡錘体の形成・維持のメカニズムは体細胞とは大きく異なります。減数分裂が途中で停止する原因を明らかにするためには、まず、減数分裂時における紡錘体の形成や染色体の分配(極体の放出)メカニズムを解明する必要があります。

研究の成果

 卵子の減数分裂に関わる鍵因子の探索を目的として、マウスの卵子を用いたこれまでの研究において、AktとmTORの2分子が、紡錘体の形成や染色体の分配、さらに減数分裂を完了させる際に重要な役割を果たしていることを見出しました(図2)。AktとmTORは、セリン/スレオニンキナーゼと呼ばれるタンパク質で、リン酸化すると活性化し、機能を発揮します。これまでに私たちは、AktとmTORが、卵子では分裂中期の紡錘体上または紡錘体極に局在し、リン酸化される部位により、特有の機能を発揮し、その絶妙なバランスが紡錘体の形成や染色体の分配(極体の放出)の制御に深く関わっていることを明らかにしてきました。このAktとmTORの卵子内での局在や、ユニークな活性化の機序は卵子に特異的なものであり、また減数分裂に特異的な制御機構と言えます。

今後の展望

 未成熟な卵子を体外に取り出して成熟させる技術(体外成熟培養)は、動物生産や生殖補助医療などの領域で広く利用されています。体外で受精可能な卵子を獲得できるようになった今、減数分裂の制御機構を正しく理解することは、受精・発生能力の高い卵子を効率よく生産・選別するための技術開発に直結する重要課題です。この研究をさらに展開することにより、卵子の体外操作技術の発展につなげていきたいと考えています。

図1

図1 卵巣内における卵子の形成と成熟の概要
卵巣内には数十万個の卵子が存在しますが、その多くは形成・成熟(減数分裂)の過程で死滅してしまうため、排卵されて受精のチャンスを獲得できるのは0.1%以下のごく僅かな卵子です。

図2

図2 マウスの卵成熟を制御するメカニズム
卵子は、核と細胞質の成熟を伴って受精可能な状態まで成熟します。卵成熟は、とても複雑なメカニズムによって制御されていますが、ここでは核の成熟(紡錘体形成や染色体分配)に関わる機序の一部を示しています。

関連する科研費

2014-2016年度若手研究(A)「第一減数分裂中期停止の発生機序の解明と染色体異常のない卵子の獲得」