事業の成果

教授:田中 勝久

教授:田中 勝久

「多機能性を示す新しい酸化物磁性体の合成と物性」

京都大学 大学院工学研究科 教授
田中 勝久
〔お問い合わせ先〕 E-MAIL:tanaka*dipole7.kuic.kyoto-u.ac.jp
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研究の背景

 酸化物磁性体は私たちの日常生活に不可欠な物質であり、永久磁石、磁気記録、高周波コイル、光アイソレーターなど、様々な材料やデバイスとして使われています。
近年は磁気的な特性のみならず電気伝導、誘電性、光物性など異なる特性を持ち合せた酸化物磁性体の探索が盛んです。たとえば、スピンの状態を制御した電子や正孔を利用する省電力のトランジスター、スピンと誘電分極(正電荷と負電荷の分離)をともに活かす高密度記録材料、磁性体を透過する光の変調を用いたホログラフィーなど、酸化物磁性体に関わる新しいテクノロジーが着実に進歩しています。そのため、新規な多機能磁性酸化物を見いだすことは非常に重要な課題です。

研究の成果

 今回、私たちは気相合成や高温高圧での固相反応を用いて、新しい多機能酸化物磁性体を合成することに成功しました。気相合成では、薄膜成長の土台となる基板(板状の単結晶やガラス)と薄膜の間に働くひずみや応力を活用するとともに、準安定な固相の凍結が容易であることを利用しました。そして、従来の方法では得られない、体積膨張を伴ったEuTiO3、高濃度のNbが添加されたEu(Ti,Nb)O3、アモルファスEuTiO3およびEu2TiO4を合成しました。安定相のEuTiO3結晶が反強磁性(磁気モーメントが反平行に並ぶ、図1)であるにもかかわらず、これらはいずれも強磁性体(磁気モーメントがすべて同じ方向を向く、図1)となることを見いだし、特にEuTiO3結晶では体積が増えるほど強磁性が安定化することを実験(図2)と理論によって明らかにしました。また、Eu(Ti,Nb)O3では磁気抵抗効果が現れ、アモルファスEuTiO3およびEu2TiO4は大きな磁気光学効果を示すことを見いだし、これらが多機能磁性体であることを実証しました。さらに、理論計算を展開して、EuTiO3やEu(Ti,Nb)O3と類似の結晶構造を持つEuZrO3、EuHfO3、EuSiO3の準安定相も強磁性になることを予測しました。
 続いて、高温高圧の固相反応で合成したLiNbO3型構造のScFeO3やInFeO3が、高い磁気転移温度と大きな誘電分極を持つマルチフェロイクス(強磁性と強誘電性が共存する物質)の一種であることを明らかにしました。

今後の展望

 酸化物が磁性を持つためには上記のFeやEuのような遷移元素が含まれる必要があります。しかし、結晶構造、元素の組み合わせ、準安定相の多様性を考えると、ここで対象とした多機能磁性酸化物は無限に存在すると言っても過言ではありません。さらに新しい物質探索を進めると同時に、これまでに得られた多機能磁性酸化物を実用的な材料に展開することを試みたいと考えています。

図1

図1  EuTiO3の結晶構造と磁気構造。矢印はEu2+の磁気モーメントの向き。F 、G は、強磁性、G型反強磁性を表す。

図2

図2  EuTiO3の安定相(△)と薄膜(□、○、◇)の磁化の温度依存性。 安定相は反強磁性で薄膜は強磁性。また、EuTiO3薄膜の体積が大きいほど磁化は高い。

関連する科研費

2007-2009年度基盤研究(B)「酸化物磁性薄膜の創製とスピン工学への応用」
2010-2012年度基盤研究(B)「精密に構造制御した酸化物磁性体薄膜の合成とスピン機能の創出」
2013-2016年度基盤研究(A)「準安定酸化物薄膜の合成とスピン機能の創出」