事業の成果

准教授:大河原 知樹

准教授:
大河原 知樹

「現代イスラーム法研究の新しい挑戦~中東債権法の国際比較分析」

東北大学 大学院国際文化研究科 准教授
大河原 知樹
〔お問い合わせ先〕 E-MAIL:tomoki.okawara.c5*tohoku.ac.jp
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研究の背景

 近年、イスラーム金融が世界的にも注目を集め、日本の金融業界や法曹界にとって、中東や東南アジア諸国の法知識の理解が喫緊の課題となりつつあります。ただ、その前提となるべきイスラーム法の研究は、日本はもとより世界的にも遅れています。イスラーム法研究者の少なさが原因のひとつではありますが、実は、現代イスラーム法研究の方法論そのものにも問題があります。
 従来は、中東諸国が19世紀以降に制定した法律は、西洋法かイスラーム法かの二分法で研究されてきました。その結果、イスラーム法に分類された法律は、古典イスラーム法学説の規定や原則をどれだけ含むのかという視点でのみ研究され、西洋法との比較という視座を欠いていたのです。

研究の成果

 私たちの研究は、イスラーム法に分類された中東諸国の法律も、実は西洋法の影響を相当程度受けているのではないかという仮説を立て、その検証を試みています。研究資料として選んだ法律は、オスマン帝国が19世紀後半に制定したメジェッレ(以下、M法典)です。オスマン帝国はこの時期、商法や刑法など、西洋法をモデルとした法を制定していますが、その中で、M法典はほぼ唯一イスラーム法をもとに制定された「民法典」(内容的にはほぼ債権法)と評価されてきました。私たちは、M法典の原典であるオスマン・トルコ語に加えて、アラビア語や英仏訳、注釈書を読み解き、それが現代の中東諸国ほかの法にいかなる影響を及ぼしたかを考察しています。
 現在までの分析の結果、M法典が硬直化した古典学説の法典化ではなく、時代の要請に配慮して学説を取捨選択し、かつ西洋法も意識した現代的なイスラーム債権法であったことが徐々に明らかになってきつつあります。
 私たちは、中東諸国の近現代法がM法典に大きな影響を受けてきたと考えており、その実証にも努めています。おそらく、その最も新しい実例であるアラブ首長国連邦民法(1985年制定)では、売買契約の定義や保証などにM法典の影響が色濃く見られます。非西洋系の法律がこれほど広範囲に影響を及ぼしている例は今では極めてめずらしく、その点でもM法典は重要な研究対象であると言えます。
 研究グループには、イスラーム法、日本民法、比較法、歴史学、地域研究などを専門とする大学の研究者や学生に加えて、現役の弁護士の方々が参加していることも大きな特徴です。これによって、法の現場に根差した意見を研究に取り入れることができています。

今後の展望

 学術面では、中東諸国の法制史の再考を促し、実務面では、現代イスラーム法の特徴を明らかにした上で、これからのビジネス法モデルの1つとして提言することをめざしています。

学際的な研究環境
図1

図1 アラビア語のオスマン民法典とその注釈書 

図2

図2 トルコ語のオスマン民法典とその注釈書

図3

図3 オスマン民法典の各国語訳:中段右はオスマン帝国の公式フランス語訳(1888年)、左は1895年刊行の英訳(個人蔵書)、手前はロシア帝国時代に作成されたタタール語訳(磯貝真澄氏提供)

関連する科研費

2011-2013年度基盤研究(B)「イスラーム法の近代的変容に関する基礎研究:オスマン民法典の総合的研究」
2015-2018年度基盤研究(B)「債権法を用いた『現代中東法』のモデル化とその比較法的研究」