事業の成果

教授:柴田 重信

教授:柴田 重信

「時間栄養学の創生とそれに立脚する機能性食品成分の探索や摂取法の提唱」

早稲田大学 理工学術院 教授
柴田 重信

研究の背景

 私たちの体には、約24.5時間周期の「概日リズム(サーカディアンリズム)」と呼ばれる体内時計が備わっています。この体内時計は、睡眠-覚醒、体温あるいは血圧のリズムなどを1日の中で変動させ、また、昼間を活動的に、夜間を安静的にします。これを司るのが時計遺伝子であり、これまで、時計遺伝子を基盤に体内時計の分子機構が解明されてきました。
 体内時計には、脳の中の視交叉上核にある主時計や、大脳皮質や海馬などにある脳時計があります。さらに心臓・肝臓・腸・肺・骨格筋などに末梢時計があり、例えば、肝臓の時計はエネルギー代謝に、腸の時計は栄養の吸収などに関わっています。まるで、主時計が指揮者の、脳時計や末梢時計が楽器の役割を担うように、全体として時計のハーモニーを形成しています。
 これまで、「時間生物学」で体内時計の基礎的な知見が明らかにされ、さらにヒトへの応用として「時間治療学」や「時間薬理学」の分野が発展してきました。しかし、食や栄養と体内時計の関わりを扱う「時間栄養学」はあまり進んでいませんでした。そこで「時間栄養学」の視点で、食事や栄養、機能性食品の摂取タイミングと健康の関わりについての研究に取り組みました(図1)

研究の成果

 身近な機能性食品成分であるカフェインの摂取タイミングが体内時計に与える影響をマウスで調べました。Invivoイメージングによる時計遺伝子の発現リズムを指標にしたところ、ヒトの場合の朝・昼に相当する時刻にカフェインを摂取させても、リズムに影響はありませんでしたが、夕方の摂取はリズムを後退させました。また、自由にカフェインを摂食させたり、細胞系に投与したりすると、リズムの周期が長くなりました(図2)。一方、カフェインの抗肥満効果は、夕方の摂取より朝の摂取のほうが効果的であることがわかりました。このことから、コーヒー、緑茶などを夕方に摂取することは、体内時計の観点から不向きであるといえます。また、別の実験で夜間に高脂肪食を摂取すると、肥満のみならず、体内時計が夜型化することがわかりました。

今後の展望

 私たちは日常的にさまざまな食品成分を摂取していますが、カフェインの例のように「時間栄養学」という新たな視点が食生活にとって重要なことがわかりました。今後は、夜間のスマホなどの光暴露により、体内時計と生活時間にずれが生じる社会的時差ボケマウスやヒトのリズム不調を回復させる機能性食品を開発したいです。また、肥満、精神疾患、腸・アレルギー疾患、老化などに対するアミノ酸、フラボノイド、食物繊維、機能性食品成分などの有効性を「時間栄養学」の視点で明らかにしたいと考えています。さらに、月曜病という言葉のような平日や週末の週間単位のリズムにも焦点を当て、「時間軸の健康科学」を発展させたいです。

図1 時間薬理学・時間栄養学と体内時計との関わり 体内時計の入力に作用する薬物や食品成分があり、薬物や食品の効き方に時刻の差異が認められる。

図1 時間薬理学・時間栄養学と体内時計との関わり
体内時計の入力に作用する薬物や食品成分があり、薬物や食品の効き方に時刻の差異が認められる。

図2  カフェインによる体内時計周期延長作用のin vitro( A)およびin vivo( B)評価 Per2::LUCマウスの胎児繊維芽細胞(MEF)ならびにマウス肝臓(Liver)のPer2遺伝子発現リズムはカフェイン投与で延長する(ピーク時刻が遅くなる)。

図2  カフェインによる体内時計周期延長作用のin vitro( A)およびin vivo( B)評価
Per2::LUCマウスの胎児繊維芽細胞(MEF)ならびにマウス肝臓(Liver)のPer2遺伝子発現リズムはカフェイン投与で延長する(ピーク時刻が遅くなる)。

関連する科研費

平成26-30年度基盤研究(S)「時間栄養学を視点とした機能性食品成分の探索と応用研究」
平成27-28年度挑戦的萌芽研究「週間リズムの視点の運動科学・栄養科学による肥満予防」