事業の成果

客員研究員:山地 久美子

客員研究員:
山地 久美子

「災害復興・被災者生活再建とジェンダーの国際比較研究」

大阪府立大学 大学院人間社会システム科学研究科 客員研究員
山地 久美子

研究の背景

 災害研究は阪神・淡路大震災(1995)で注目され、東日本大震災(2011)によってその重要性が社会で広く認識されてきています。しかし、科研費を申請した2009年当時、災害研究はジェンダーの視点からの学術的調査がなされていませんでした。なかでも、先進国を対象とした国際的な研究がなかったため、福祉国家の枠組みでの調査が必要だと考えました。災害研究は、常に現場を意識した上で学際的、国際的な観点からの研究が求められ、国内外の研究者、実務者とともに調査体制を構築できたことは本研究の重要な背景です。

研究の成果

 本研究は「復興」に焦点をあて、5年、10年、20年と長期継続的な調査を実施しています。日本・韓国・台湾・米国・イタリアの現地では、被災者、支援者、行政、メディア、研究者を対象に、各国・各地の言語でヒアリングを行い、資料収集、研究会などにより調査を進めています。
 災害研究には、災害特有の課題と平時から連続した課題への2つのアプローチがあります。災害特有の課題としては、社会保障から独立した被災者支援の仕組みがあげられます。日本では、住民票に基づき住宅被害の程度によって罹災証明書が発行され、罹災証明を持つ世帯主が被災者生活支援金、義援金などの公的支援を受けられますが、他の世帯構成員は支援を直接には受けられないという課題があります。この世帯を単位とした支援は、世帯主の8割近くが男性である日本、イタリアなどではジェンダーの課題としての改善が必要です。また、被災者支援制度と社会保障の間に隙間があり、これらが生活再建の課題として捉えられていないことが問題であることを明らかにし、「被災者支援レジーム」と名付けました。
 研究成果は、新たな制度の導入や、制度の見直しへいち早くつながるように積極的に発信してきました。東日本大震災の発生時には、政府への提案書の提出、東日本大震災復興構想会議関連のヒアリングなどで私たちの知見を提供する機会を得て、それを様々な形で施策に反映することができました。また、2012年には、兵庫県西宮市が開発した被災者台帳「被災者支援システム」が世帯単位から個人単位でも運用できるようになりました。
 そして、APEC Typhoon Symposiumをはじめ、国際会議・全国各地での講演や研究会・シンポジウム・ワークショップの開催、メディアでの発信を通じて、災害とジェンダー・社会保障を社会の重要課題、新たな研究領域として構築できたことも大きな成果です。

今後の展望

 熊本地震(2016)、風水害、土砂災害の発生など、災害は世界的に頻発化、激甚化しており、災害研究の重要性が増しています。これからも国際比較研究を進め、個人単位での被災者支援と災害手当制度の確立、被災者台帳の全国共通システム化など、復興に向けた新たな仕組みの検討・提案を行っていきます。

  1. (1) 復興まちづくりへの参画(復興の進行管理、まちづくり協議会など)
  2. (2)復興・防災の政策決定過程参画プロセス調査とジェンダーの主流化
  3. (3)被災者支援と法律(被災者支援レジーム、生活再建)
  4. (4)社会保障と災害支援の連続
    災害手当制度の確立(個人単位制度)
  5. (5)経済復興(社会保障制度、就労・起業支援制度、非正規雇用)
  6. (6)災害時の妊産婦支援
  7. (7)災害時の外国人支援、多文化共生社会と復興まちづくり
  8. (8) 原発事故災害に関する法律、支援制度
  9. (9)母子支援、父子支援
  10. (10) 災害の伝承・語り部、地域づくり

表1 主たる調査内容

図1  東日本大震災「女性の復興カフェ」(宮城県気仙沼市)

図1  東日本大震災「女性の復興カフェ」(宮城県気仙沼市)

図2  原発事故避難ママ・パパの
シンポジウム(兵庫県神戸市)

図2  原発事故避難ママ・パパの
シンポジウム(兵庫県神戸市)

図3  海外学術調査(台湾台北市・
中央研究院)

図3  海外学術調査(台湾台北市・
中央研究院)

関連する科研費

平成22-24年度基盤研究(B)「ジェンダーと災害復興-制度設計と生活再建をめぐる課題に関する国際比較研究」
平成25-27年度基盤研究(B)「復興・防災まちづくりとジェンダー―生活再建と制度設計に関する国際比較研究」
平成28-30年度基盤研究(B)「被災者支援レジーム/復興まちづくりの国際比較研究-ジェンダーの視点から」