事業の成果

准教授:藤田 尚志

准教授:藤田 尚志

「愛・性・家族の関係をめぐる哲学的研究
フランス近現代思想の観点から」

九州産業大学 国際文化学部 准教授
藤田 尚志

研究の背景

 私はこれまで、アンリ・ベルクソン(1859-1941)を中心とするフランス近現代思想を研究してきました。ベルクソンは「生の哲学」を代表する哲学者であり、生き物を、本能や知性によって様々な「生の形式」を発明し続ける存在と捉えるところに特徴の一つがありますが、彼の哲学の枠内では愛・性・家族といった人間の社会的な再生産・再組織の現象に関しての解明は十分行われませんでした。そこで、生の哲学の現代的展開として、〈結婚〉あるいは愛・性・家族の錯綜体(さくそうたい)を哲学的に捉えることに興味を持つようになりました。心理学的あるいは社会学的な考察は数多くありますが、哲学的な研究はというと、未だにそう多くは見られないのが現状だからです。
 そのような観点から〈結婚〉に関する西洋哲学史の再検討を進めようとしていた折、福岡大学の宮野真生子先生が、〈恋愛〉に関する近代日本思想史的研究を進めておられることをお聞きして、それぞれのゼミの学生たちとともに、愛・性・家族をめぐる様々なテーマについて、哲学的に探究する「恋愛/結婚合同ゼミ」を開催するようになりました。研究と教育の一体化は、実は本研究の第1の、隠れた方法論的特徴でもあります。

研究の成果

 2012年2月に合同ゼミを始めてはや4年が過ぎました。その間、様々な分野の気鋭の研究者をお招きし、白熱した議論を通じて、徐々に問題意識が形成・確立されていきました。こうして総勢20名ほどの研究者とともに、『愛・性・家族の哲学』全3巻を今春(2016年4月)に上梓することができました。
 愛・性・家族を個別に取り扱うのではなく、その関係を考えることは、そのなかで練り上げられてきた第2の方法論的特徴です。「関係を考える」とは、分離・接合の様態を考えるということであって、人間本性や歴史・伝統の実態を無視して「愛・性・家族は常に一体としてあるべし」といった道徳観を称揚することではありません。例えば、愛と家族の盲目的一体化は、老老介護の深刻な現実を直視していません。介護を家族の外へアウトソーシングすることは家族への愛と切り離して考えられなければなりません。あるいは、セックスレス夫婦(性なき愛)がかなり常態化してきているにもかかわらず、性欲の不均衡の問題は直視されておらず、愛と性の分離は真剣に検討されていません。他にも幼児虐待・婚活・おひとりさま…昨今指摘される諸現象は、愛・性・家族の錯綜した関係を解きほぐすことなしには理解できないものです。
 これらの諸現象に対して、フランス近現代思想は、モンテーニュからルソーを経てボーヴォワールに至るまで、ディドロからフーリエを経てドゥルーズやデリダに至るまで、実に豊かな思考実験の宝庫となっています。彼らの残してくれた諸概念という遺産を、様々な学問分野の成果を参照しつつ継承・発展させること。アクチュアルな同時代的関心を強く抱きつつも、はるか古代や、はるか未来からの反時代的な眼差しを向けること。これが本研究の第3の方法論的特徴です。

今後の展望

 まず個人のレベルでは、①契約と約束、②所有と優先権、③人格性と個人性の概念について、これまでの研究で示した大まかな方向性をさらに展開していきたいと考えており、その成果としての単著の執筆を計画しています。次に、これまで続けてきた合同ゼミをさらに発展させ、これまで以上に多様なジャンルの専門家との共同作業を継続し進化させていきたいと願っています。最後に、ベルクソン研究の国際展開において培ってきたノウハウを用いて、この愛・性・家族の哲学的研究に関しても、国際展開の道を探っていきたいと考えています。

関連する科研費

平成21-22年度研究活動スタート支援「フランス近現代思想における身体論(愛・性・家族から見たその展開)」
平成25-27年度若手研究(B)「フランス現代哲学における主体・個体・人格概念の再検討(家族の解体・再構築を軸に)」