事業の成果

准教授 下畑 享良

准教授 下畑 享良

「急性期脳梗塞に対する新規治療標的分子としての
プログラニュリンの有効性」

新潟大学 脳研究所 神経内科 准教授
下畑 享良

研究の背景

 脳卒中は日本の死因の第4位、寝たきりの原因の1位であるばかりでなく、医療費の1割を占めています。また、高齢化社会を迎え、脳卒中患者は急激に増加しており、極めて深刻な問題となっています。発症後急性期に行われる「組織プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)」を用いた血栓溶解療法は、脳の血管に閉塞した血栓を溶かし、血液の流れを再開するための最も有効な治療法ですが、治療可能時間が発症後4.5時間以内と極めて短いため、脳梗塞患者のわずか5%未満しか治療の恩恵を受けられません。このように治療可能な時間が短いのは、治療可能時間を超えると血管にも障害が起こり、脳出血や脳浮腫(脳のむくみ)を生じるためです。

研究の成果

 これまで私たちの研究グループは、tPAと一緒に投与して、脳出血や脳浮腫などの治療の合併症を防ぐ薬剤を開発してきました。今回の研究では、tPAと一緒に「プログラニュリン」を投与した時の効果を動物モデルを用いて調べました。プログラニュリンは、欠乏すると認知症を引き起こす体内タンパク質(成長因子)として知られています。その結果、プログラニュリンには、血管保護作用があり脳出血や脳浮腫を防ぎ、治療可能時間を延長するだけでなく、脳の神経細胞を保護し、かつ炎症を抑制して、脳梗塞のサイズまで縮小することが、明らかになりました(図1)。このような多様な効果を一度にもたらす脳梗塞治療薬はこれまで実用化されておらず、今後の臨床応用が期待されます(図2)。

図1 プログラニュリンの効果。tPAのみ治療可能時間を超えて投与した場合、脳梗塞(白い部分)に加えて、脳出血(矢印)を合併しますが、tPAとともにプログラニュリンを投与した場合、脳梗塞のサイズが縮小し、かつ脳出血の合併も抑制されます。

図1 プログラニュリンの効果
tPAのみ治療可能時間を超えて投与した場合、脳梗塞(白い部分)に加
えて、脳出血(矢印)を合併しますが、tPAとともにプログラニュリン
を投与した場合、脳梗塞のサイズが縮小し、かつ脳出血の合併も抑制
されます。

図2 プログラニュリンの作用メカニズム。プログラニュリンは、血管保護作用、神経細胞保護作用、炎症の抑制作用を介して、脳梗塞から脳を守る働きがあります。

図2 プログラニュリンの作用メカニズム
プログラニュリンは、血管保護作用、神経細胞保護作用、炎症の抑制
作用を介して、脳梗塞から脳を守る働きがあります。

今後の展望

 この薬剤が実用化されれば、現在、4.5時間までの治療可能時間を8時間程度まで延長できる可能性があり、そうなればtPA治療の恩恵を受ける患者数も3倍以上に増加することが予想されます。また合併症である脳出血や、脳浮腫をおこす患者が減るとともに、脳梗塞のサイズが縮小し、予後が改善されることも期待できます。現在、国内の研究機関との共同研究を進めており、脳梗塞の患者さんに対する治療の実用化を目指しています。

関連する科研費

平成26ー28年度基盤研究(C)「脳梗塞に対する新規治療標的分子としてのプログラニュリンの検討」