事業の成果

部長 佐々木 えりか

部長 佐々木 えりか

「小型霊長類コモンマーモセットの前臨床モデルの開発」

公益財団法人実験動物中央研究所 マーモセット研究部 部長
佐々木 えりか

研究の背景

 新しい薬や病気の治療法の開発で最も大切な事は、開発している薬や治療法が病気の治療に有効であるというだけではなく、ヒトの体全体に対しても安全であるということです。そこで新しく開発された薬や治療法の有効性や安全性を実験動物を用いて検証しなくてはなりません。実験動物ではマウスが最も多く用いられていますが、マウスとヒトでは、生理学的、解剖学的に異なる点が多く、マウスの実験で得られた結果をヒトにそのまま適用できない場合もあります。そのため、よりヒトに生理学的、解剖学的に似た性質を持つ霊長類の実験動物が必要になることがあります。コモンマーモセット(マーモセット)は、小型の霊長類で生物学的にヒトによく似た特徴を持つので、新規に開発した薬や治療法の安全性の確認には有用ですが、ヒトの病気を再現した疾患モデルは種類が限られており、有効性の確認にはあまり使われていませんでした(図1)。遺伝子改変技術を用いてマーモセットでヒトの疾患モデルを作製できれば、安全性だけでなく、病気の治療法の有効性を検証することも可能になります。

図1 コモンマーモセット。コモンマーモセットは、医学研究領域の重要なモデル動物。写真は、大好物のカステラを食べているところ。

図1 コモンマーモセット
コモンマーモセットは、医学研究領域の重要なモデル動物。
写真は、大好物のカステラを食べているところ。

研究の成果

 この研究では、遺伝子改変により2型糖尿病の疾患モデルマーモセットの作製を目指しました。まず、糖の代謝を行っている遺伝子の発現を抑制できる遺伝子を人工的に作製し、マーモセットの受精卵へ注入しました。その際、導入した遺伝子が染色体に組み込まれた受精卵は緑色の蛍光タンパク質を発現するようにしました。そして、緑色に光る受精卵を仮親の子宮に移植したところ(図2)、3頭のマーモセットが生まれ、これらのマーモセットの体細胞で、導入遺伝子が機能している事を確認しました。また、ヒトの2型糖尿病は成人になってから発症するため、この糖尿病モデルマーモセットでも成体になってからドキシサイクリンという抗生物質を摂取すると糖尿病を発症するように工夫しました。その結果、これら3頭のマーモセットから得た細胞を培養して、培養皿にドキシサイクリンを加えると、いずれも糖代謝を行っている遺伝子の発現が抑制されることが示されました。

図2 遺伝子を注入したマーモセット受精卵染色体に導入遺伝子が組み込まれて緑色の蛍光を発する受精卵。白丸は、遺伝子を導入していない受精卵。

図2 遺伝子を注入したマーモセット受精卵染色体に導入遺伝子が組み込まれて緑色の
蛍光を発する受精卵。白丸は、遺伝子を導入していない受精卵。

今後の展望

 今後、このマーモセットモデルがヒトの糖尿病の症状とどれだけ似ているかを解析し、糖尿病のみならず糖尿病性腎症、網膜症の治療薬の開発に有用なモデルになるように、さらに開発を進めていきたいと考えています。また、このモデルマーモセットを多くの研究者に利用していただくために、効率良く繁殖する新たな技術開発も行っていきます。

関連する科研費

平成22-26年度基盤研究(A)「標的遺伝子ノックダウンによる霊長類ヒト疾患モデルの作出」
平成27-31年度基盤研究(A)「小型霊長類コモンマーモセットを用いたキメラ個体作出技術の開発」