事業の成果

助教 志村 華子

助教 志村 華子

「植物ウイルスの病徴誘導におけるRNAサイレンシングの関わり」

北海道大学 大学院農学研究院 助教
志村 華子

研究の背景

 RNAサイレンシング(RS)は塩基配列特異的にRNAが分解される現象であり、遺伝子発現の調節に大きな役割を持っています。RSはウイルスなどの外来RNAの分解も行い、植物では、ウイルス感染に対する防御メカニズムの1つとなっています。一方でこのRSは、ウイルスが起こす様々な病徴誘導にも関わっていると考えられています。病徴とは、植物が病原体に感染したときに起こる症状のことをいいます。私たちは、キュウリモザイクウイルス(CMV)に寄生するサテライトRNA、Y-satellite RNA(Y-sat)を材料に、植物ウイルスの病徴誘導メカニズムの解明を目指して研究を行っています。

研究の成果

 私たちは、葉緑素合成に関わるChlI遺伝子のmRNAには、Y-satの中央部配列と相補する22塩基の配列があること、また、Y-satの相補配列部分からsiRNA(RSを誘導する短いRNA)が生成することでChlI mRNAが分解され、葉緑素の欠乏すなわち黄化症状が引き起こされることを示しました(図1)。これは、ウイルスの病徴誘導に宿主のRSが直接的に関わることを示した初めての例です。そこで、RS経路がどのようにこの黄化病徴に関わるのか、詳細な分子メカニズムについて解析を行いました。その結果、ChlI mRNAがAGO1(RS経路の重要なスライサータンパク質)によって特異的に切断を受けることや、黄化の程度はY-satのsiRNA量と相関することなどが分かりました。DCLsやRDRはsiRNA生成に関わるタンパク質ですが、DCL2およびDCL4発現抑制植物やウイルスベクターを利用してY-sat siRNAs(21、22および24塩基)を作れないようにしたところ、Y-satが増殖していても黄化は起こらなくなりました(図2)。また、DCLsが存在する場合、RDR6は黄化誘導に必須ではないことも分かりました。RSメカニズムの研究は主にArabidopsisで進んでいますが、私たちの研究材料であるNicotiana benthamianaではDCLsの役割分担がArabidopsisとは異なることが分かってきており、これまで信じられてきたRSの常識に新たな知見を導入することができるのではないかと考えています。

図1 Y-satellite RNA(Y-sat)感染によって起こる黄化病徴。Y-satとChlI mRNAには22塩基の相補配列領域があり、Y-sat由来のsiRNAがRNAサイレンシングによってChlI mRNAの分解を誘導する。ChlIはクロロフィル合成に関わるため、ChlI mRNA量の低下はクロロフィル欠乏(=黄化)を引き起こす。

図1 Y-satellite RNA(Y-sat)感染によって起こる黄化病徴。
Y-satとChlI mRNAには22塩基の相補配列領域があり、Y-sat由来
のsiRNAがRNAサイレンシングによってChlI mRNAの分解を誘導
する。
ChlIはクロロフィル合成に関わるため、ChlI mRNA量の低下は
クロロフィル欠乏(=黄化)を引き起こす。

図2 DCL2i/DCL4i植物にY-satが感染した時の病徴。21、22塩基のsiRNAに加え、24塩基のsiRNAも作れないようにする条件では、Y-satが増殖していても黄化病徴が起こらなかった。(左)Y-sat感染DCL2i/DCL4i植物(黄化が起こっていない)、(右)Y-sat感染野生型植物(黄化が起こっている)

図2 DCL2i/DCL4i植物にY-satが感染した時の病徴。
21、22塩基のsiRNAに加え、24塩基のsiRNAも作れないようにする条件
では、Y-satが増殖していても黄化病徴が起こらなかった。(左)Y-sat
感染DCL2i/DCL4i植物(黄化が起こっていない)、(右)Y-sat感染野生
型植物(黄化が起こっている)

今後の展望

 RSを介した植物とウイルスの相互作用の解明といった基礎研究を通じて得られる成果を、ウイルス病被害の対策となりうる実用研究へつなげることも目指しています。例えば、ウイルスはRSに対抗するためにRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)を持ち、RSS活性の強弱は病徴にも影響します。このRSSの解析研究を通じて、RSSをターゲットとした化合物を抗ウイルス剤として利用するような研究も進めています。

関連する科研費

平成24-25年度研究活動スタート支援「ウイルスサテライトRNAが引き起こす黄化病徴に関わる分子メカニズムの解明」
平成27-28年度若手研究(B)「植物茎頂組織へのウイルス侵入を阻むRNAサイレンシングメカニズムの解明」