事業の成果

教授 恩田 裕一

教授 恩田 裕一

「福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する
学際的研究」

筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 教授
恩田 裕一

研究の背景

 2011年3月11日の東日本大地震および津波の発生を契機として、東京電力福島第一原子力発電所の事故が併発しました。原子炉施設から放射性核種が福島県周辺地域に飛散し、大気の拡散輸送過程により全球に拡散した結果、各学問分野の単独的取り組みでは解決できない複合的で未曾有の問題となりました。そこで、地球環境科学の多くの分野に放射化学や放射線計測技術の分野などを加えた分野横断的で新しい学問領域を創設して、この問題に取り組むことが必須です。本研究では、こうした長期的な環境中の放射性物質の移行および環境動態予測に、研究者が英知を結集して取り組み、世界をリードする新たな研究領域を形成することを目指しています。

研究の成果

 主な研究成果として、大気分野においては大気輸送モデルの整備・高度化を行い、137Cs沈着の時系列変化をよく再現できるようになりました。さらに土壌・生態系に沈着した放射性物質の再飛散プロセスの解明を進めています。
 海洋では海洋中の放射性セシウム分布状況および総量の推定を目的として、3H、90Sr、129Iの海洋を通じた移行経路の解明を行い、おおむね初期状況の把握が可能となりました。また海洋生態系での放射性物質の移行の経路・メカニズムの解明を進めています。
 陸域では森林樹冠から林床への移行量の観測を行った結果、放射性物質濃度の低減傾向が二重指数関数モデルで再現できることがわかりました。また、河川から海洋へ流出する放射性セシウムの濃度も二重指数関数モデルで再現でき、濃度低下が早いことが明らかになりました。森林生態系での放射性物質の移行については、腐葉土への移行、放射性セシウムの経根吸収、および葉面、樹皮からの吸収の実態が解明されつつあります。陸・海洋の試料において、より簡便で高感度な方法を用いてウラン・超ウラン元素組成を詳細に解析した結果、原子炉内の組成がほぼそのまま環境中に放出されていることが明らかになるとともに、放出総量を見積もることができました。

図1 研究概要

図1 研究概要

今後の展望

 今後は、新しい研究領域の創成が期待される下記の4つのテーマについて、重点的な支援を行う予定です。
 ①放出時の放射性物質の化学形態の分析に基づく放射性核種沈着プロセスの推定と移行への影響評価
 ②陸域から河川を通じた海洋への放射性核種の移行プロセスの解明とモデル化
 ③森林における放射性物質の循環プロセスの解明とモデル化
 ④環境中の放射性核種の動態と移行状況の把握に基づく地点別の被ばく量算定
 また、平成28年度には書籍の刊行や公開シンポジウムにより5年間の成果を広く社会に還元する予定です。

関連する科研費

平成24-28年度新学術領域研究(研究領域提案型)「福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究」