事業の成果

助教 水野 洋輔

助教 水野 洋輔

「光ファイバ中のブリルアン散乱を用いた分布型センシング」

東京工業大学 精密工学研究所 助教
水野 洋輔

研究の背景

 近年、飛行機の翼やビルの内壁、ダムや橋梁などの構造物に光ファイバを埋め込み、その経年劣化や地震による損傷などを監視するシステムの重要性が高まっています。そのため、光ファイバに沿った任意の位置で歪み(伸び)や温度変化の大きさを測定できる「分布型センサ」を実現しようと、種々の取り組みが行われています。中でも、光ファイバ中で起こるブリルアン散乱(物質の中での音波による光の散乱)を利用した技術は、安定性・精度が優れているため精力的に研究が進められてきました。
 従来の分布型センサでは、ほとんどがシリカを中心とするガラス光ファイバにより構成されていました。しかし、ガラス光ファイバは損傷しやすいため、取り扱いには細心の注意が必要でした。さらに、数%の歪みで破断してしまうため、それ以上の大きな歪みを測定することができませんでした。

研究の成果

 そこで私たちは、プラスチック光ファイバ(POF)に注目しました。それは、POFは径が太く、50%以上の歪みにも耐えられる高い柔軟性を持っており、敷設コストが安価であり、ファイバ間の接続が容易で、高い安全性を持つなど、ガラス光ファイバにはない多くの利点を有するためです。
 私たちは、まず従来困難とされていたPOF中のブリルアン散乱の観測に初めて成功しました。その歪みや温度に対する性質を調査した結果、温度に対する感度が極めて高いことや、数十%以上の大きな歪みに対して興味深い挙動(周波数シフト量の非線形応答やホッピング)を示すことなどを明らかにしました。これに関連して、POFヒューズ現象(光ファイバの破壊現象)も発見しました(図1)。
 続いて、これまでに私たちがガラス光ファイバを用いて開発した「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」と呼ばれる技術を用いて、POFに沿った歪みや温度の分布測定を初めて実証し、cmオーダの高い空間分解能を実現しました。また、最近ではBOCDR技術の高速化を通じて、POFを用いた分布測定のリアルタイム化や局所的な振動の検出も実証しました(図2)。

図1 POFヒューズが伝搬する様子。撮影した写真を1秒おきに重ねて表示した。

図1 POFヒューズが伝搬する様子。撮影した写真を1秒おきに
重ねて表示した。

図2 POFを用いたリアルタイム分布測定の例。温度分布測定(左)と 振動検出(右)。

図2 POFを用いたリアルタイム分布測定の例。温度分布測定(左)と
振動検出(右)。

今後の展望

 POF独自のもう1つの利点として、「記憶」機能が挙げられます。これは、大きな歪みが発生すると、歪みの解放後もPOF内にその歪みの大きさ・位置の情報が保持される「塑性変形」という性質です。この性質を利用すれば、「常に高価な解析装置を光ファイバの先端に設置しておかなくても、地震の後で1台の解析装置を持った担当者が巡回検診すればよい」ので、ファイバセンサ技術のコストを大幅に低減できるものと期待されます。私たちは現在、「記憶」機能の詳細な解明を進めており、分布測定を通じてその有用性を実証する計画です。

関連する科研費

平成24年度研究活動スタート支援「ポリマー光ファイバ中のブリルアン散乱を用いた分布型歪・温度センシング技術の開発」
平成25-28年度若手研究(A)「ポリマー光ファイバのテーパー加工によるブリルアン散乱の増強とセンシング応用」
平成26-28年度挑戦的萌芽研究「機能性流体でコアを充填した光ファイバによる電磁界分布センシング技術の開発」