事業の成果

教授 儀我 美一

教授 儀我 美一

「動く曲面や曲線の数学解析」

東京大学 大学院数理科学研究科 教授
儀我 美一

研究の背景

 時間とともに形が変化していく現象は、科学技術分野のいろいろな場面に現れます。そのような変化を数学的に記述して解析することは、数学において重要であるだけでなく、科学技術分野での現象を説き明かしたり制御したりするための基礎ともなります。例えば、結晶表面がどのように成長していくかを解明することは、美しい雪の結晶などの成長メカニズムの理解とともに、半導体形成などの産業技術にとっても有益です。
 このような現象は、しばしば微分方程式で記述されます。この微分方程式が解ければ、現象を追跡し結果を予測できるようになります。しかし、結晶面では角(かど)が生じたり、ちぎれたりして、いわゆる特異点が生じることがあるので、古典的な意味では微分方程式が解けなくなることがよく起こります。幸い、筆者が1990年代に構築した、曲線や曲面を関数の等高線や等高面とみなす「等高面法」と呼ばれる数学理論があります。この理論に基づく新しい「解の概念」を用いると、金属の焼きなましのときの結晶粒界の運動を記述する平均曲率流方程式については、特異点発生後の形状変化も追跡可能になりました(儀我美一、陳蘊剛『動く曲面を追いかけて』日本評論社(1996)、新版(2015))。

研究の成果

 結晶成長では、液滴と異なり、結晶方位の異方性による現象が多く見られます。異方性が強い場合は、結晶面にファセットという平らな面や、角が現れます(図1)。これを表す微分方程式は特異性が強く、解の概念は明らかではありませんでした。そこで「等高面法」を拡張し、解の概念を新たに確立しました。その結果、どんな曲面から始めても、この微分方程式を満たして動く形状、つまり「解」を、時間無限大まで構成することに成功しました。また、そのような「解」はただ1つしか存在しないことを示しました。これによりファセットや角の現れる結晶成長を追跡する数学的基盤を確立しました。一方、結晶表面の渦巻の成長現象について等高面法を変形し、渦巻どうしの衝突を許容する解の追跡にも成功しています(図2)。

図1 ヘリウム4Heの結晶の絶対零度付近での形状(S. Balibar, C. Guthmann, E. Rolley(1994): In S. Balibar, H. Alles, A. Y. Parshin, Rev. Mod. Phys. 77(2005))

図1 ヘリウム4Heの結晶の絶対零度付近での形状(S. Balibar, C. Guthmann,
E. Rolley(1994): In S. Balibar, H. Alles, A. Y. Parshin, Rev. Mod. Phys.
77(2005))

図2 変形等高面法による結晶表面の渦巻の衝突の数値計算(大塚岳(2015))

図2 変形等高面法による結晶表面の
渦巻の衝突の数値計算
(大塚岳(2015))

今後の展望

 結晶表面の渦巻分布と面の成長速度との関係を、等高面法を用いて考察していきます。これは、数学的には微分方程式の解の時間無限大での挙動の研究に対応します。そしてBurton-Cabrera-Frank(1951)による結晶成長学の基礎理論の見直しにもつながります。その他、上記の数学理論の一般化や、流れの効果の解析など、いろいろな関連課題にも取り組んでいきます。

関連する科研費

平成21-25年度基盤研究(S)「複雑現象に挑む形態変動解析学の構築」
平成25-27年度挑戦的萌芽研究「距離空間上の粘性解」
平成26-30年度基盤研究(S)「特異構造が支配する非線形現象の高度形態変動解析」