事業の成果

准教授 藤谷 武史

准教授 藤谷 武史

「グローバル化時代の国家・社会・法の関係を探る」

東京大学 社会科学研究所 准教授
藤谷 武史

研究の背景

 経済活動や人・情報の移動が「グローバル化」する現代にあって、その裏側で着実に進行しているのが「統治のグローバル化」です。人間の活動のグローバル化は、様々な公共的課題(金融危機、食の安全、伝染病、テロの脅威など)のグローバル化でもあります。それらに対して一国単位での対応は困難となり、国家間の協調の枠組み、多国籍企業やNGOも巻き込んだ公私を越えた横断的なネットワークを包摂する「グローバル・ガバナンス」が金融、環境などの政策領域ごとに発展しています。しかし、その分、「公共的課題に対して主権的決定を行う単位」としての国家の特権性や自律性は揺らいでいます。
 こうした「統治のグローバル化」現象は、政治学や国際関係論の領域では早くから注目されてきましたが、法や法学にとっては特に難しい問題を提起します。私たちが想定する「法に基づく秩序」のイメージ―「民主的正統性を持つ憲法や法律を根拠とする規範が強制力を伴って実現される」―は、国家の存在を暗黙の前提としてきたため、国家ではない場や主体によってルール(例えばバーゼル銀行監督委員会での「バーゼル合意」や多国籍企業・NGOが策定する行為規範)が作られ「事実上の」強制力をもって通用することでグローバル・ガバナンスが機能している現象にどう応答すべきか、従来の枠組みではうまく答えられないからです。このため近年、グローバル化に対応する法(学)のあり方を求めて、世界各地で様々な理論的な試みが活発に展開されていますが、私たちが研究を開始した2012年当時はまだ、日本の法学ではこの問題意識自体が広く認識されていませんでした。

研究の成果

 私たちの共同研究では、「(日本の)公法と私法の関係が、グローバル化によってどのような変化を被るか」という問いを設定しました。福祉国家では、古典的自由主義に基づく公法/私法の二元論はかつてのように絶対的なものとは見なされなくなり、民主的正統性を持つ立法者が「公共政策実現の道具」として公法と私法を組み合わせて制度設計をすればよいという発想に至ります。しかし、グローバル化の下で国家による法の基礎付けが揺らぐと、国家の不在による民主的正統性の欠如を懸念する公法と当事者自治の発想を前面に国境を越えていく私法の間のギャップが再び顕在化します。そこで両者を突き合わせて検討することにより、現代のグローバル化する統治と法において、国家(あるいは、国家の枠にとらわれない広がりを示し始めた社会)が持つ意味を多面的に明らかにするのが、この問題設定の狙いです。若手から中堅世代の公法学者と私法学者が時間をかけて対話を重ねた結果、両者の視点の表面的な相違の背後に潜んでいた共通の概念としての法の〈正統性〉や〈多元性〉の要素、法の構成における〈分散〉と〈統合〉の契機など、グローバル化に対応した法学の再編作業の足場となる基本概念を浮き彫りにすることができたと考えています。もちろん、今回の研究は、巨大な問題に取り組むための糸口を見出した段階にすぎませんが、現段階での成果を『グローバル化と公法・私法関係の再編』(弘文堂・2015年)として上梓することができました。今後、同書への批判的なコメントも歓迎しつつ、日本の法学における「グローバル化と法」への学問的関心を喚起することができればと考えています。

浅野=原田=藤谷=横溝(編著)『グローバル化と公法・私法関係の再編』(弘文堂・2015年)

浅野=原田=藤谷=横溝(編著)『グローバル化
と公法・私法関係の再編』(弘文堂・2015年)

今後の展望

 上記の基礎研究を土台として、(1)グローバル化する統治が紛争解決や個人の権利救済の場面にもたらす影響と対応策についての具体的事例に則した法学的検討、(2)法規範の多元性の可能性と限界についての隣接諸学(政治学・経済学・経営学)の知見を取り入れた学際的理論研究、の2つの課題を相互補完的に追究することが次の目標です。

関連する科研費

平成24-27年度基盤研究(B)「グローバル化に対応した公法・私法協働の理論構築―消費者法・社会保障領域を中心に」