事業の成果

教授 納富 信留

教授 納富 信留

「プラトンの正義論をめぐる欧文総合研究」

慶應義塾大学 文学部 教授
納富 信留

研究の背景

 ギリシアの哲学者プラトン(前5-4世紀)の主著『ポリテイア』(『国家』)は、西洋哲学でもっとも重要な哲学書とされる、人類の古典です。しかし、この著作をめぐっては、政治学の書物として読むべきか否か、また、全体主義の起源となる危険思想かどうかが、20世紀後半から活発に議論されてきました。私たちは数年にわたって集中的に研究を重ね、2010年8月に国際プラトン学会大会「第9回プラトン・シンポジウム」(慶應義塾大学三田キャンパス)を開催、世界の研究者たちとこの著作を主題に最先端の議論を行いました。本研究ではその成果をまとめ、英語での研究を発展させることを目指して、『ポリテイア』が論じる「正義」と「自由」の理念を検討しています。

研究の成果

 研究メンバーによる積極的な海外での発表、外国人研究者によるセミナー・講演会に加えて、2つの国際学会が重要な成果となっています。2012年8月、オックスフォード大学で開催した学会「自由と国家」でイギリスの学者たちと議論し、2014年4月、慶應義塾大学日吉キャンパスでの国際シンポジウム「プラトンとレトリック」では、アジアや欧米からの若手研究者たちと議論を深めました。そして、『ポリテイア』を市民の自律と自由を確立する「正義論」として読むことを、広く問いかけてきました。
 その成果は論文集Dialogues on Plato's Politeia(Republic)(Academia Verlag, 2013)の編集や、多くの英語論文、そして拙著『プラトン理想国の現在』(慶應義塾大学出版会、2012年)にまとめられています。そこでは、プラトンの「理想国」論が明治以降の日本で大きな影響力をもち、日本の近代哲学の基礎となってきた有様を明らかにしました。その歴史を改めて見つめ直すことで、世界に発信する日本のプラトン正義論を研究しつづけています。

図1 国際学会「プラトンとレトリック」基調講演:金南斗教授(韓国)

図1 国際学会「プラトンとレトリック」基調講演:金南斗教授(韓国)

図2 納富信留『プラトン理想国の現在』

図2 納富信留『プラトン理想国の現在』

今後の展望

 これまでの研究は、さらに大きな射程で国内外との共同研究につながっていくはずです。とりわけ、本研究が明らかにしつつある近代日本のプラトン哲学の受容については、中国や韓国などアジアの研究者の間でも関心が広がっています。ここから21世紀のあらたな哲学対話が始まることを期待しています。世界中で読まれてきたプラトンの主著を人類の共有遺産として読み直し、日本が先導する人間の共生哲学へと発展させること、それが本研究の目標です。

関連する科研費

平成20-22年度基盤研究(B)「古代ギリシア正義論の欧文総合研究ープラトン『国家』とその伝統ー」
平成23-27年度基盤研究(B)「プラトン正義論の解釈と受容に関する欧文包括研究」