事業の成果

准教授 古寺 哲幸

准教授 古寺 哲幸

「脚の短いプロセッシブミオシンが運動している様子のビデオ撮影に成功」

金沢大学 理工研究域 バイオAFM先端研究センター 准教授
古寺 哲幸

研究の背景

 様々な細胞運動に関わるミオシンのうちミオシン6とミオシン10は、2本の“短い脚”を持ち、アクチン繊維の上を1分子で長距離移動することができるプロセッシブミオシンです。その脚の長さは、同じくプロセッシブミオシンに分類されるミオシン5に比べて短く、ミオシン10はミオシン5の半分(図1e)、ミオシン6にいたっては3分の1しかありません(図1a)。これまで、ミオシンがアクチン繊維に沿って運動するときの歩幅は、脚の長さに比例することが広く信じられていましたが、驚くことに、“脚の短い”ミオシン6とミオシン10も、“脚の長い”ミオシン5と同じ歩幅で運動することが、蛍光顕微鏡などを用いた実験によって示されていました。近年になって、脚の一部が伸びて大きな歩幅を実現していることが示唆されていましたが、ミオシン6とミオシン10が大きな歩幅でアクチン繊維に結合している構造的な証拠は一切ありませんでした(図1)。

研究の成果

 本研究では、金沢大学の安藤敏夫教授が世界に先駆けて開発した高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて(科研費NEWS2010年度vol.4に掲載)、アクチン繊維に沿って運動している最中のミオシン6とミオシン10のビデオ撮影を行いました。その結果、それぞれのミオシンが大小の歩幅を混ぜながら、前進運動、ならびに、まれな後進運動を起こしながら、全体として一方向へ運動する様子を直接観察することに初めて成功しました。このときの運動様式は、ヒトが歩くように、2つの足の前後関係を交互に変えながら進むハンドオーバーハンド様式と、シャクトリムシが動くように、2つの足の前後関係を一定に保ったまま進むインチワーム様式が混在していました。また、大きな歩幅で動くときは、脚の一部が伸びていることを直接観察できました(図2)。さらに、これまでの手法では観察できなかった、“足踏み運動”や“脚の構造変化”の観察に成功しました。これにより、ミオシン6とミオシン10の運動メカニズムをより詳細に理解することができました。

図1 プロセッシブミオシンのモデル構造(左側)と構造的証拠(右側)

図1 プロセッシブミオシンのモデル構造(左側)と構造的証拠(右側)。
(a-d)ミオシン6、(e-f)ミオシン10、(g-h)ミオシン5について。ミオシン6はアクチン繊維の-端方向へ、ミオシン10とミオシン5は+端方向へ運動する。(d)Nishikawa et al., BBRC2002より転載。(h)Kodera et al., Nature 2010より転載。

図2 高速AFMで撮影した運動中の(a)ミオシン6と(b)ミオシン10。 大きな歩幅で運動する様子を直接観察することに成功した(上段)。 下段はそのモデル構造。

図2 高速AFMで撮影した運動中の(a)ミオシン6と(b)ミオシン10。大きな歩幅で運動する様子を直接観察することに成功した(上段)。下段はそのモデル構造。

今後の展望

 ミオシンはATPの加水分解エネルギーを使ってアクチン繊維の上を運動しますが、本研究によって、ミオシンのエネルギー変換機構の解明に関する重要なヒントも得ました。今後は、このエネルギー変換機構を解き明かしたいと考えています。



関連する科研費

平成22-23年度 研究活動スタート支援「高速原子間力顕微鏡によるミオシン6の運動メカニズムの解明」
平成24-26年度 若手研究(B)「高速原子間力顕微鏡による脚の短いプロセッシブミオシンの運動メカニズムの解明」