事業の成果

教授 京 哲

教授 京 哲

「卵巣癌のoriginを解明する」

島根大学 医学部 産科婦人科学 教授
京 哲

研究の背景

 上皮性卵巣癌の組織形態は卵管や子宮内膜に非常に類似していますが、そのような組織は正常卵巣には存在しません。では、なぜこのような形態の癌が発生するのでしょうか? これは長らく謎でした。
 最近、Kurmanらにより上皮性卵巣癌の多くはその起源が卵巣外にあり、卵巣にはそれが2次性に波及するという新たな説が提唱され注目されています(Kurman Ret al. Am.J.Surg.Pathol. 34:433-443, 2010)。
 Kurmanらがまず提唱したのは卵管采(卵管の先っぽの組織)起源説です。これまで卵巣癌の前癌病変は卵巣内にあると考えられていたため卵管は注意深く調べられていませんでしたが、最近になり、卵巣癌患者の卵管采の50-60%に卵管上皮内癌が認められることが報告されました。卵管上皮内癌には癌部と同一のp53遺伝子変異が高率に見出されることから、卵管上皮内癌の細胞が卵管采末端から卵巣表面に剥離、侵入し、2次性に卵巣癌が発生するのではないかと考えたわけです。
 今回私たちは卵巣癌の卵管采起源説を検証するために卵管采細胞を元に不死化細胞を作成し、これに様々な遺伝子操作を加え、漿液性腺癌が作れないかを試みてみました。

研究の成果

 まず良性の子宮筋腫の患者から摘出された卵管から同意を得て卵管采上皮細胞を分離し、これを初代培養に供しました。卵管采上皮細胞は基本的にはたった1層の細胞層からなり、非常に細胞の数が少ないので培養は至難の業だと思われましたが、絶妙な上皮分離操作で上皮細胞のみを純化して初代培養することに成功しました(図2)。
 ついで、この初代培養細胞にテロメレース遺伝子などを強制発現させる方法で不死化させることに成功しました。さらにこの不死化細胞に特定の3つの遺伝子変異を導入することで癌化した細胞を作成することができました。驚くことに、この癌化細胞をマウスに接種して出来た腫瘍を顕微鏡で観察すると、まさに卵巣漿液性腺癌の形態を示していたのです。

図1 卵巣癌の卵管采起源説 卵管采細胞の卵管への移植は、排卵時に卵管采が卵を捕捉する際などに 起こると推定される。排卵の際に破裂する卵胞にはエストロゲンなどの 増殖因子が多量に含まれ、移植細胞には絶好の環境であると言える。

図1 卵巣癌の卵管采起源説
卵管采細胞の卵管への移植は、排卵時に卵管采が卵を捕捉する際などに起こると推定される。排卵の際に破裂する卵胞にはエストロゲンなどの増殖因子が多量に含まれ、移植細胞には絶好の環境であると言える。

図2 卵管采上皮細胞の培養と不死化、癌化不死化細胞から特定の遺伝子変異を3つ入れることで癌化が起こる。卵巣癌の卵管采からの多段階発癌を単純化したモデルである。

図2 卵管采上皮細胞の培養と不死化、癌化
不死化細胞から特定の遺伝子変異を3つ入れることで癌化が起こる。卵巣癌の卵管采からの多段階発癌を単純化したモデルである。

今後の展望

 私たちの実験成果は卵巣癌が卵管采由来であることを証明するものですが、導入した3つの遺伝子変異こそが卵巣癌の癌化の必須メカニズムと考えられます。この3つのステップをさらに解析することで、癌化機構の解明と新たな分子標的治療の開発につなげたいと考えています。



関連する科研費

平成27-29年度 基盤研究(B)「卵巣漿液性腺癌の卵管起源説に対する実験的検証と発癌分子機構の解析」