事業の成果

助教 谷口 淳子

助教 谷口 淳子

「1次元ナノ細孔中ヘリウムの超流動と朝永-ラッティンジャー液体的挙動」

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 助教
谷口 淳子

研究の背景

 一般に、低次元系は強い量子揺らぎが多様な現象を引き起こすため、物性物理の重要な課題であり続けてきました。その中で、1次元フェルミ系は朝永-ラッティンジャー(TL)流体として振る舞うことが知られており、すでに1次元電子系を中心に実験的研究が進んでいます。一方、1次元ボーズ系は理想気体ではBEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)状態にならず、1次元系4Heにおいても超流動性を示さないと考えられてきました。しかし最近、1次元系4Heがボーズ系TL液体となり超流動性を示すことが理論的に予測されました。特に、東京大学物性研究所の押川らは、「TL液体の超流動応答は動的な現象で、超流動応答に伴うエネルギー散逸のピーク温度が観測周波数に対して“べき的”な依存を示す」という重要な指摘をしています。
 私たちはこれまで、1次元ナノ細孔(図1)に4Heを閉じ込めることで1次元系4Heの実現を目指し、その超流動性をねじれ振り子法により実験的に調べてきました。ねじれ振り子は、ねじれロッドと試料セル(細孔と4Heが中にある)で構成され、超流動成分を共振周波数の上昇として検出するものです。孔径2.8nmの細孔中では、超流動はバルク4Heの転移温度より1K以上低温で現われ、さらに、その成長はエネルギー散逸のピークを伴う動的な現象であることが分かっていました。

研究の成果

 私たちは、細孔中の超流動がTL液体的な特徴を有するかどうかを調べるために、複数の周波数で超流動を観測することを考えました。そのために、ねじれロッドに試料セルとおもりをつけることで2つの共振モード(2kHzと0.5kHz)を持たせた、2重連成振り子を開発しました。(図2挿入図)これを用いて測定した結果、図2に示すように、超流動の立ち上がり、およびエネルギー散逸のピークが、周波数の低下により低温側に40mK程度シフトすることが分かりました。この大きさは押川らの予測とほぼ一致しており、細孔中4HeでTL液体が実現している可能性を示す、初めての観測事実となりました。

図1 1次元ナノ細孔中4Heのイメージ図

図1 1次元ナノ細孔中4Heのイメージ図

図2 孔径2.8nmの細孔中4Heの超流動応答。T、Tはそれぞれ2、0.5kHzにおける散逸ピーク温度。挿入図は2重連成振り子の模式図

図2 孔径2.8nmの細孔中4Heの超流動応答。Tph、Tplはそれぞれ2、0.5kHzにおける散逸ピーク温度。挿入図は2重連成振り子の模式図

今後の展望

 今後、広範囲の周波数領域で超流動を観測する測定法を開発し、周波数依存の詳細を調べていきたいと考えています。これにより、細孔中の超流動とTL液体との関連が実験的に明らかになるでしょう。系の次元を下げることで初めてあらわになる「量子揺らぎの効果」を、超流動という現象を通して明らかにしていければと考えています。



関連する科研費

平成23-25年度 若手研究(B)「1次元細孔中の液体3Heを用いた朝永-ラッティンジャー液体の研究」
平成26-28年度 基盤研究(C)「ナノ細孔中4Heを用いた1次元特有の動的な超流動応答の実験的解明」