事業の成果

准主任研究員 坂井 南美

准主任研究員
 坂井 南美

「原始惑星系円盤形成に伴う分子組成の劇的変化」

理化学研究所 准主任研究員
坂井 南美

研究の背景

 恒星は、星と星との間に漂うガスや塵からなる雲(星間分子雲)が自己重力で集まることで誕生します。その際、周囲に作られるガス円盤が惑星の起源です。私達の住む太陽系も46億年前、そのようにして誕生しました。
「太陽系は宇宙の中でありふれた存在なのだろうか?」この問いは、宇宙における私たちの起源や存在意義を考える上で極めて重要な問題です。これまで、構造や運動などの物理的視点から原始惑星系円盤の形成が調べられてきましたが、その視点だけからでは円盤と周囲のガスの区別が難しく、円盤形成現場を捉えることができませんでした。また、円盤形成に伴うガスの化学組成変化についても、太陽系環境の物質的起源に直結する課題にもかかわらず、観測研究はほとんど進んでいませんでした。

研究の成果

 南米チリのアタカマ砂漠に建設されたアルマ望遠鏡を用いて、おうし座分子雲にある原始星L1527周辺の高感度・高空間分解能観測を行い、生まれつつある円盤に付随するガスの運動状態と化学組成を調べました。その結果、中心星から半径100AUよりも内側で、炭素が直線状に連なった炭素鎖分子やその仲間の分子が急激にガス中からなくなっている一方で、一酸化硫黄分子はその半径付近でリング状に局在していることがわかりました。ドップラー効果の精密測定から、この半径は、落ち込んでくるガスが遠心力のために滞留し(遠心力バリア)、原始惑星系円盤に移り変わっていく半径であることがわかりました。落ち込むガスが円盤に突っ込むときに弱い衝撃波が生じ、それによって塵の表層に凍りついていた一酸化硫黄分子がガス中に放出されてリング状に観測されたと見られます。原始惑星系円盤は、角運動量を何らかの機構で抜き去られた物質が遠心力バリアの内側に入り込んで形成されると考えられますが、円盤内は低温、高密度なのでほとんどの分子が星間塵に凍りついてしまいます。このため、炭素鎖分子やその仲間の分子はバリアの内側では検出されなかったと考えられます。同様の現象は、ごく最近、他の複数の原始星天体の周辺でも確認されました。これまで、星間空間の物質は静々と惑星系円盤に取り込まれていくと考えられていましたが、その考えは単純すぎることが示されました。

図1 ALMA望遠鏡で観測されたL1527原始星まわりのcyclic-C3H2分 子およびSO分子の分布

図1 ALMA望遠鏡で観測されたL1527原始星まわりのcyclic-C3H2分 子およびSO分子の分布

図2 (左)L1527原始星まわりの円盤の向きと視線方向の関係(右)cyclic-C3H2分子およびSO分子の視線方向の運動速度

図2 (左)L1527原始星まわりの円盤の向きと視線方向の関係
(右)cyclic-C3H2分子およびSO分子の視線方向の運動速度

今後の展望

 この結果は、化学組成が原始惑星系円盤の形成に伴って劇的に変化することを示したばかりでなく、その化学変化を利用して円盤形成の物理過程を調べる新しい方法論を開拓した点で大きな意義があります。この新しい切り口から、惑星系形成過程とそこでの化学進化の一般性、多様性が、ここ数年程度でかなりわかってくるでしょう。それを通して我々の太陽系の起源の理解が大きく進むことが期待されます。



関連する科研費

平成23-24年度 若手研究(B)「原始星円盤から原始惑星系円盤への化学的多様性の伝播を探る」
平成25-27年度 基盤研究(C)「ALMAによる太陽型原始星の化学進化の探究」