事業の成果

教授 高田 十志和

教授 高田 十志和

「高分子鎖の空間連結が産み出すトポロジー変換可能な高分子」

東京工業大学 大学院理工学研究科 教授
高田 十志和

研究の背景

 加える刺激に応じた物性や機能を示す刺激応答材料は、多種多様で有用なものもたくさんあります。しかし、可逆的に形状(トポロジー)、特性を変化させることのできる高分子材料は多くありません。私たちは、その可逆性を保証する最も有効なスイッチ機能を持つ微小ユニットとして、ロタキサンに注目して研究をしています。
 1980年代から始まったロタキサン科学の興味の中心はそのスイッチ機能(図1)に基づく分子素子でしたが、今日その活用の幅は大きく広がっています。しかし、高分子にロタキサンのスイッチ機能を付与した例はこれまでありませんでした。それは、1本の高分子にロタキサン構造を1つだけ導入する手法がなかったからです。

研究の成果

 最近、私たちは、ロタキサン構造を1つだけ高分子に導入することに成功しました。それは、重合反応の擬ロタキサン構造を持つ開始剤を使い、軸末端からリビング重合を進めて最後に嵩高(かさたか)い基を軸末端に導入することで達成されました(図2A)。この手法は、以下に示すように、微小な部位のスイッチで高分子の形状と特性が変わる興味深い高分子システムの構築に応用できます。
 線状高分子の末端は高分子の性質に大きな影響を及ぼすため、最近、末端のない環状高分子に高い関心が集まっています。しかし、効率のよい合成手法が限られており、また線状高分子を直接環状高分子に変えるには、1つの分子の末端どうしだけを結合させるという非常に困難な手法しかありませんでした。私たちは、線状高分子の片末端にロタキサン構造を導入し、その末端と輪成分を結合させました。そして、輪成分を左から右に移動させるだけで環状高分子に可逆的に誘導できること、移動前後で大きく物性も変化することを明らかにしました(図2B)。
 また、輪成分に高分子鎖を持たせた高分子[2]ロタキサンでも、輪成分を軸成分である高分子鎖の中央から端に移動させることで、星形高分子が線状高分子に変換され、そのトポロジー変化に伴って、粘度などの物性が大きく変化することも明らかにしました(図2C)。

図1 ロタキサンスイッチのイメージ図

図1 ロタキサンスイッチのイメージ図

図2  高分子ロタキサンの形成と変換のイメージ図:(A)高分子[2] ロタキサンの合成、(B)線状-環状高分子トポロジー変換、(C) 星形-線状高分子トポロジー変換

図2  高分子ロタキサンの形成と変換のイメージ図:(A)高分子[2] ロタキサンの合成、(B)線状-環状高分子トポロジー変換、(C) 星形-線状高分子トポロジー変換

今後の展望

 この手法が確立されれば、1つの分子が刺激に応じて2つの物性・機能をもつ高分子を自在に合成できるようになります。外部刺激として、例えば力学刺激を想定した場合、強い打撃には固くなって遠くに飛び、弱い打撃には柔らかくなって操作しやすいボールや、夏場の暑い場所では通気性がよく、日陰では保温性のある服など、様々な応用が考えられます。今後は、ロタキサン連結機能を存分に活かして、さらに大きなトポロジー変化とそれに伴う物性・機能の変化を示す高分子の開発を進めていく予定です。



関連する科研費

平成23-26年度 基盤研究(A)「微小管状高分子を基盤とする動的超分子マテリアルの創製と制御」
平成26-27年度 新学術領域研究(研究領域提案型)「トポロジー変換可能な新規超分子ポリマーの合成と組織化・機能制御」