事業の成果

教授 外輪 健一郎

教授 外輪 健一郎

「微細管路の特性から見えてくる新しい化学プロセス技術」

徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部 教授
外輪 健一郎

研究の背景

 化学産業は長い歴史の中で発展を続け、現代の私たちの生活を支える様々な物質や材料を提供していますが、化学工場で使われている装置は、昔ながらの大型の撹拌装置や加熱・冷却装置が現在も主役の座についています。一方で、21世紀に入った頃から、マイクロリアクタと呼ばれる新しい技術が注目されるようになりました。これは径が0.1~1mm程度の微細管路の中で反応や加熱・冷却を行う技術です。温度を一定に保ちやすい、反応の結果を左右する混合速度を制御しやすいといった特長があるため、多くの反応を効率よく実施できることが確認されており、すでに実用化も始まっています。

研究の成果

 私たちはマイクロリアクタが高い性能を発揮する理由について興味を持ち、深く考察してみました。すると、微細管路が使われていることに加え、接触、混合、伝熱といった基礎的な要素部分にはっきりと分化した構造をもっている点も重要なことが分かりました。これは微細管路を使うことで自然にできた構造ですが、化学装置をより基礎的な要素に分解し、それらを再構成することでいっそう高機能な装置を創出できることを実証した技術といえます。
 私たちのグループは、この考え方に基づいた考察を進め、いくつかの新しい化学装置を提案しました。その1つは新しい蒸留装置です。蒸留は化学工場で多用されている分離技術ですが、エネルギー消費量が大きいことが1つの欠点です。私たちは蒸留を気液接触、気液平衡、気液分離という基本操作の繰り返しであると捉え、装置全体を再構成することで従来なかった等温型の蒸留装置を提案することができました。理論計算では、この蒸留法が大幅な省エネルギー性を示すことが明らかになっており、現在その実証試験を進めています(図1)。
 別の事例としては、マイクロリアクタと従来型装置を融合させた反応装置を提案しています。これは酸素ガスを使った液体の酸化反応のように、気体と液体を接触させる必要がある反応の速度を増大できることを確認しています。私たちは、この装置の工学的な性能を詳しく調査するとともに、マイクロリアクタを気液反応に適用する際に重要になる、微細管路中の気液の流動状態の解明(図2)も進めています。

図1 提案する新規蒸留技術の実験装置。

図1 提案する新規蒸留技術の実験装置。

図2
図2

図2 微細管路を流れる液滴の数値解析の結果。流路幅は0.5mm、流れは右方向です。液滴が管路と同程度の大きさの場合に、液滴内に見られる循環流(上)とその流れによって溶質が外部から内部に拡散する様子(下)を示しています。

今後の展望

 マイクロリアクタの登場は、化学工業の発展の中で装置の考え方を変革させたといえます。微細流路の有用性だけでなく、マイクロメートルあるいはミリメートルオーダーでの現象をもう一度見直し、基本的な要素の構成を再検討すると、新しい化学技術を多く創出できることを示した点が特に重要だと捉えています。私たちは、化学産業のいっそうの発展に貢献できるよう、このような視点に基づいた新しいコンセプトの化学装置や化学プロセス技術の提案を続けていきます。



関連する科研費

平成21-23年度 挑戦的萌芽研究「温度分布を持たない蒸留装置の創出による化学工場の省エネルギー化技術の開発」
平成24-26年度 挑戦的萌芽研究「不均一反応のためのバッチ-マイクロ融合型反応システムの開発」
平成26-28年度 基盤研究(B)「ガス要求量の大きい気液反応のためのマイクロ反応システム設計論」