事業の成果

教授 松本 曜

「移動動詞の実験的研究」

神戸大学 人文学研究科 教授
松本 曜

研究の背景

 日本語と英語には、事物の移動をどのように表現するかについて、大きな違いがあることが知られてきました。たとえば、〈上方向〉の移動は、日本語では〈上がる〉などの動詞で表すのに対して、英語ではupなどの副詞・前置詞で表します。このような絶対的方向に関する表現の違いについては、多くの研究がなされてきました。でも、「行く」「来る」などで表される、話者との位置関係、すなわち「直示性」の表現については、あまり考察がなされていませんでした。また、多くの研究は、母語話者としての研究者自身の直感に頼って研究を行ってきました。

研究の成果

 これに対して、科研費プロジェクト『日英語と移動表現の類型論:直示性に注目した通言語的実験研究』では、2つの点で新しい試みを行いました。1つは直示性に注目したこと、もう1つはビデオ実験という新しい研究手法を取り入れたことです。私たちが行った調査は、人が様々な移動を行う様子をビデオで撮影して話者に見せ、それをどのように表現するかを答えてもらうというものでした。これによって、統一的な具体的場面を設定した上で、日英語の話者がどのように「来る」「come」などの直示動詞を用いるのかを調べることができました。
 この実験により、両言語で直示動詞を使う機会が異なることが明らかになりました。日本語では、調査したほぼすべての移動事象に対して「行く」か「来る」が使われました(「駆け込んで来た」のように複数の動詞の1つとして使われる場合を含む)。それに対して英語では、移動者が話者と同じスペース(部屋)に入る場合や、移動の際に話者に話しかけるなどの行為を行う場合のみ、直示動詞が多く使われました。このような違いは、日英語の主観性や行為性の違いといった、より大きな違いを反映したものと考えられますが、この研究はそれを実験的、実証的に証明したことになります。

図1 話者が特定の仕切られた空間にいると、そこへの移動はcomeで 表現されやすい。

図1 話者が特定の仕切られた空間にいると、そこへの移動はcomeで表現されやすい。

図2 移動動詞の性質に関する学会発表

図2 移動動詞の性質に関する学会発表

今後の展望

 2015年度から始まった科研費プロジェクト『移動表現による言語類型:実験的統一課題による通言語的研究』では、諸言語において、様々な経路がどのような形式で表現されるのかについて、いままで以上に多様なケースを取り上げて実験を行います。それにより、言語間の差異と共通性の両方について、さらに多くのことを明らかにしたいと思います。



関連する科研費

平成17-20年度 基盤研究(B)「言語類型論と日英語:音韻、統語、意味、談話における類型論の総合的研究」
平成22-25年度 基盤研究(C)「日英語と移動表現の類型論:直示性に注目した通言語的実験研究」
平成27-30年度 基盤研究(B)「移動表現による言語類型:実験的統一課題による通言語的研究」