事業の成果

教授 西尾 久美子

教授 西尾 久美子

「人材育成と事業システム」

京都女子大学 現代社会学部 教授
西尾 久美子

研究の背景

 人材を育成しながら事業を継続していく上で、個人にとっても組織にとってもメリットが大きい仕組みはどのようなものだろうか、また得られた研究成果は少しでも社会に役立つようにまとめたい、これが企業勤務を経験して研究者になった私の研究に対する基本的な考え方です。
 京都花街の芸舞妓の人材育成と一見(いちげん)さんお断りに代表される事業システムとの関連を博士論文にまとめた後、科学研究費の支援のもとで、人材を育成しながら長期的に事業を継続している、エンターテイメント産業や地域の基幹産業の事例を取り上げて研究を続けてきました。

研究の成果

 華やかなスポットライトを浴びるタカラジェンヌたちは、全員が学校で基礎教育を受けています。さらに、舞台での多様な能力発揮の機会をファンが見守り、評価し、将来を期待しながら応援する「劇場型選抜」の仕組みがあり、それらが10代の少女がトップスターへ成長する長期的なキャリア形成につながっています。日本のエンターテイメント産業の特色は、この人材育成のプロセスそのものが顧客へのサービス提供に付加価値を生み出していることであり、それを支えているのが人材育成と事業システムの密接な関わりでした。
 宝塚歌劇や京都花街のような教育制度を活用した基礎技能の育成は、日本を支える中小企業にとっては負担が多く実践することが難しいのが現状です。しかし、広島県因島(いんのしま)では、造船業の中小企業が連携して技能育成のセンターを設立・運営しています。このセンターは、大企業が撤退した後、地域の基幹産業を担う新人教育を目的に1999年にスタートしました。「3カ月で3年の効果」と形容される成果は、地元の経営者層、造船関連団体、行政、そして退職した技能者たちが指導育成を担うという連携の仕組みによって成り立っています。これは、新人の離職率の低減や地域外の人材の新規雇用という成果にもつながり、2005年には今治に、2006年には大分などと、日本全国の複数地域に同様のセンターが設立されています。
 人材育成のために利害関係にある複数の事業者が連携すると、それがさらに波及して地域の基幹産業である中小企業の技能育成の基盤になっていくという研究成果は、海外の学会で驚きをもって迎えられました。

図1 宝塚歌劇の人材育成と事業システム―タカラジェンヌとファンの関係

図1 宝塚歌劇の人材育成と事業システム―タカラジェンヌとファンの関係―
西尾久美子(2012)、「エンターテイメント産業のビジネスシステム-宝塚歌劇の劇場型選抜の仕組み」、『日本情報経営学会誌』第33巻第2号、3-15頁より引用

図2 因島技術センターでの実技研修の様子 因島技術センターより写真提供

今後の展望

 技能レベルの高い組織や個人が、そのメリットを独り占めしないのはなぜなのでしょうか。そこで、今後は数百年という長い歴史を持つ伝統的専門職組織の「能楽」を事例に、専門家同士の連携による能力発揮や、流儀の中に複数の一門がある組織運営など、超長期にわたって続く人材育成と事業システムについて探究したいと考えています。伝統という時間の流れの中で知恵を蓄えてきた事例を取り上げて研究し、その知恵を適切に受け取って次の変革に活用する、そんな研究成果を目指したいと思います。



関連する科研費

平成21-23年度 基盤研究(C)「エンターテイメント産業における人材育成と事業システムに関する研究」
平成24-26年度 基盤研究(C)「地域基幹産業における人材育成と事業システムに関する研究」