事業の成果

教授 西野 理子

教授 西野 理子

「パネルデータから、日本の家族関係のダイナミクスをとらえる」

東洋大学 社会学部 教授
西野 理子

研究の背景

 中年期の夫婦関係は安定しているイメージがありますが、実際にはどの程度あてはまるのでしょうか。「経済的に貧困だと夫婦仲が悪い」など2変数間の関連が指摘されても、それが因果関連であるかどうかはわかりません。たとえば、夫がよく家事をしていると、その妻の夫婦関係満足度が高いことが以前からわかっていますが、それは夫が家事をすると妻の満足感が高まるのか、それとも、夫がよく家事をするような緊密な夫婦関係にあれば、当然その妻の満足度が高いのでしょうか。こうした疑問に答えるには、同一個人を継続的に追跡調査して収集した「パネルデータ」が必要です。

研究の成果

 私たち日本家族社会学会有志は、研究会を組織し、全国規模の家族パネル調査を実施して、得られたデータセットを用いて研究を進めています。2009年から2013年まで5年間にわたって、1,879名の方々について毎年調査をさせていただきました。研究テーマは多岐にわたりますが、ここでは上記の疑問に私たちの研究会メンバーがどのように答えているのかをご紹介しましょう。
 分析の結果、実際に夫の家事が増減した時に妻の満足度が変動していることが確かめられました。満足度だけでなく、情緒的なサポート認知、日常の会話頻度など複数の側面のすべてにおいて、夫の家事が増えると妻の側にも夫婦関係の改善が認められました。  一方で、夫婦関係がまだ安定していない結婚15年以内のカップルに限定すると、夫の家事が増えると妻の満足度が上昇しているわけではなく、夫の家事が減ると妻の満足度が低下していることがわかりました。実は、夫の家事参加が夫婦関係を良好にするわけではなく、家事をしないと関係が悪化するというわけです。つまり、夫の家事が妻の満足度を高める効果と低める効果は同じではなく、区別してとらえる必要があったわけですが、こうした区別はパネルデータがなかったらわからないものです。
 また、定年退職を機に男性の家事参加が進むことはよく知られており、私たちのデータでも定年退職後に夫の家事頻度も夫婦の会話も実際に増えていました。しかし、夫の家事が増えたからといって妻の家事量は減っていないし、妻の夫婦関係満足度も変わっていませんでした。定年を機に夫が夫婦関係を見直しても、その効果は薄いのかもしれません。

図1 国際社会学会横浜大会にてテーマセッションを開催(2014年7月)

図1  国際社会学会横浜大会にてテーマセッショ ンを開催(2014年7月)

図2 日本家族社会学会第24回大会にてテーマセッションを開催(2014年9月)

図2  日本家族社会学会第24回大会にてテーマセッションを開催(2014年9月)

図3 毎年複数回の研究会を開催して、研究成果を発表・検討

図3  毎年複数回の研究会を開催して、研究成果を発表・検討

今後の展望

 他にも、離死別経験の影響、親子関係の変化、きょうだい関係など、研究の成果を学会発表や刊行物で発表しています。研究を展開してみると、家族関係の変化と時間との絡み合いにはまだまだ未解明の部分が大きいことに気づかされます。私たちが行った調査は5年という短い期間でしたが、より長期間継続して追跡するパネル調査が必要だと考えています。



関連する科研費

平成21-25年度 基盤研究(A)「パネルデータによる現代日本家族の動態研究」
平成26-28年度 基盤研究(C)「パネルデータによる家族関係の変容過程の研究」