事業の成果

写真:教授 西原 利治

教授 西原 利治

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と
生活習慣関連肝発癌の克服に向けて

高知大学 医学部 教授
西原 利治

研究の背景

  非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は脂肪肝を背景とする慢性肝疾患で、肝硬変や肝癌に進展します(図1)。今では誰もが知る肝疾患ですが、かつては糖尿病の合併症なのか、独立した肝疾患なのかとの議論になりました。ちょうどその頃、抗エストロゲン剤による乳癌の完治が可能となり、副作用としてまれに肝硬変を引き起こすとの報告を受けて注意喚起がなされていました。

図1 典型的なNASH症例の肝組織像(Saibara T, et al. Lancet. 1999 Oct 9;354(9186):1299-1300より引用)

図1 典型的なNASH症例の肝組織像
(Saibara T, et al. Lancet. 1999 Oct 9;354(9186):1299-1300より引用)

研究の成果

  私たちは、抗エストロゲン剤によって誘発される肝障害がNASHであることを発見し、NASHの疾患概念の確立に貢献しました。また、エストロゲン合成酵素欠損マウスの肝臓では脂肪酸酸化能の低下が顕著であること、その改善にはPPAR-αリガンドの投与が有効であることを初めて明らかにしました(図2)。この成果をもとに、乳癌治療時にNASHを発症した症例にPPAR-αリガンドを併用する治療法を世界で最初に確立し、平成12年に日本医師会医学研究助成を受けました。

  その後、インスリンシグナルの下流に存在する遺伝子の特定の遺伝子多型がNASH発症の危険因子であることを示し、NASHにおける肥満治療の重要性を指摘しました。また、検診受診者でのNASHの有病率が2~3%であること、PNPLA3の特定の遺伝子多型が日本人のNASH感受性遺伝子であること、男性、高齢、耐糖能異常、肝病変の進展などがNASH肝癌の危険因子であることをJapan Study Group of NAFLDの研究者とともに明らかにし、NASHの高危険群を特定する簡便な血液検査法の開発にも成功しました。

図2 エストロゲン欠乏動物における脂肪酸酸化関連遺伝子発現の低下(Nemoto Y et al. J Clin Invest. 2000;105:1819-1825. より引用)

図2 エストロゲン欠乏動物における脂肪酸酸化関連遺伝子発現の低下
(Nemoto Y et al. J Clin Invest. 2000;105:1819-1825. より引用)

今後の展望

  乳癌が急増する中での抗エストロゲン剤による副作用を克服する方法の確立は、閉経前女性に福音となりました。また、日本人のNASH感受性遺伝子の解明や検診受診者を対象とした疫学研究はNASH肝癌撲滅に向けた行政的政策立案に有用です。さらに、NASHに特異性の高い血液検査法を検診に導入すれば、NASHの早期発見と治療を通じて急増するNASH肝癌の抑止につながると期待されます。

  現在、糖尿症例の1割余がNASHを中心とする肝疾患で死亡していることから、今後、NASHの急増を受けたNASH肝癌の増加が危惧されます。そこで、ヒトと同じ遺伝子異常により肥満をきたすマウスNASHモデルを用いて、肝臓に優しい糖尿病の治療法の確立に貢献したいと考えています。



関連する科研費

平成13-14年度基盤研究(C)「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の非侵襲的診断・病態解析・治療法の開発」
平成16-17年度基盤研究(C)「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)発症機構の解明とその臨床応用」
平成19-20年度基盤研究(C)「脂肪酸β酸化能を規定する遺伝子多型の特定とその結晶蛋白構造解析」
平成21-23年度基盤研究(C)「通常食で自然肝発癌する非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスにおける発癌の分子機構」
平成24-26年度基盤研究(C)「AFP産生を伴う肝細胞増殖の制御機構解明を通じたNASHにおける肝発癌抑止」
平成27-29年度基盤研究(C)「自然肝発癌するNASHモデルマウスでのPPAR-αを介した発癌抑止の分子機構」