事業の成果

写真:教授 西原 寛

教授 西原 寛

電子・光機能を持つ金属錯体ナノシートCONASHの界面合成

東京大学 大学院理学系研究科 教授
西原 寛

研究の背景

  現在最もホットな研究対象物質の1つにグラフェンがあります。黒鉛(グラファイト)は層状構造をした3次元物質ですが、その層の1枚だけを取り出すと、2次元物質のグラフェンになります。この次元性の違いが幾何構造だけでなく、物性にも大きな違いをもたらすため、グラフェンやその他の無機2次元物質の様々な基礎・応用研究がなされています。

  私たちは、2次元物質を金属錯体で作ることを研究しています。この金属錯体で作るナノシート、CONASHにはいろいろな特長があるからです。例えば、金属と配位子の組み合わせで、多種の化学構造、幾何構造のCONASHを設計・合成することができ、様々な物性や化学特性の発現が可能です。また、錯形成反応は温和な条件下で進行するので、簡便にCONASHを合成できます。

研究の成果

  CONASHの合成法としては、まず水と混じらない重い有機溶媒に有機配位子を溶かした溶液をつくり、そこに金属イオンの水溶液を重ねて、静置することによって、二相界面で錯形成を起こす方法を用いました。ヘキサベンゼンチオール配位子のジクロロメタン溶液とニッケルイオンの水溶液の組み合わせでは、一晩後に黒色の1μm厚のフィルムが生成しました。この膜の観察、同定と構造解析を多種の方法で行うと、分子模型通りのカゴメ格子を持つニッケラジチオレンCONASH(図1)の多層構造になっていることが分かりました。さらに、金属イオン水溶液の表面に極少量の有機配位子を分散させ、気液界面で錯形成を起こさせる方法で、単層CONASHの合成に成功しました。

  ニッケラジチオレン系に関して、生成した膜を基板に移しとり、原子間力顕微鏡(AFM)および走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察したところ、単層の2次元結晶薄膜の生成を確認しました(図2)。このニッケラジチオレンCONASHはレドックス活性で高い導電性を示します。また、同様の方法で合成したビステルピリジン金属CONASHはエレクトロクロミック特性、ビスジピリナト亜鉛CONASHは光電変換特性を示します。

図1 ニッケラジチオレンCONASHの化学構造

図1 ニッケラジチオレンCONASHの化学構造

図2 HOPG基板上の単層ニッケラジチオレンCONASHの原子力顕微鏡像(左)と走査トンネル顕微鏡像(右)

図2 HOPG基板上の単層ニッケラジチオレンCONASHの原子力顕微鏡像(左)と走査
トンネル顕微鏡像(右)


今後の展望

  合成に成功した単層ニッケラジチオレンCONASHは、その後、バンド構造の理論計算により、2次元トポロジカル絶縁体になるとの予測が報告されました。CONASHでは、金属イオンや配位子に重い原子を用いて、スピン軌道相互作用を大きくできるので、このような特異な物性を引き出すことができると期待できます。また、金属錯体の持つ化学機能を活かすことで、触媒やセンサ、エネルギー貯蔵への応用も期待できます。



関連する科研費

平成21-25年度新学術領域研究(研究領域提案型)「刺激応答分子の創製とその精密配列による化学素子の開発」
平成25-26年度挑戦的萌芽研究「メタラジチオレンπナノシートの創製」
平成26-27年度新学術領域研究(研究領域提案型)「金属錯体πナノシートの界面創製と物性」
平成26-30年度基盤研究(S)「機能性ナノ構造体の界面配位合成と化学素子の創製」
平成27-28年度挑戦的萌芽研究「気相・気液界面反応を用いる高品質錯体πナノシートの合成」