事業の成果

写真:教授 VACHA Martin

教授 VACHA Martin

分子レベルの懐中電灯脱―高分子1本鎖からの電界発光を観測―

東京工業大学 大学院理工学研究科 教授
VACHA Martin

研究の背景

  共役系高分子の1つであるポリフルオレンは、優れた電導特性や青色発光特性を示すため、有機電界発光(EL)ディスプレイや照明などの光電子デバイスへの応用が期待されています。しかし、駆動時間の経過とともに発光色が青色から緑色へ変化するという問題があり、効率の低下や駆動の不安定性につながっていました。このような問題は10年来議論されており、ポリフルオレン鎖の酸化や鎖間どうしの凝集などが原因と考えられてきましたが、依然として整合性のある説明はなされていませんでした。

研究の成果

  私たちは、共役系高分子ポリフルオレンの1本鎖の光電子物性に関する研究を行いました。ポリフルオレン1本鎖を高密度、かつ個々に分離するために、ブロック共重合体が形成する垂直ナノシリンダーの相分離構造を用いました。ナノシリンダー構造の中に、個々のポリフルオレン鎖を閉じ込めることで、ポリフルオレン鎖1本1本が分離された薄膜を作製し、さらにこの薄膜に電極を付けることでEL素子を作製しました。

  この素子を高解像蛍光顕微鏡で観察し、世界で初めて個々の共役系高分子1本鎖からの電界発光の検出に成功しました(図1)。個々のポリフルオレン鎖を観察したところ、青色発光と緑色発光を繰り返す単一鎖の存在を発見しました(図2)。また、この緑色発光は、電界を印加した時のみ顕著に観測されることを見い出しました。さらに、緑色の電界発光の発現が、ポリフルオレン鎖中にトラップされた電荷によりポリフルオレン1本鎖の凝集が加速化されて生じることも明らかにしました。

図1 ブロック共重合体薄膜からなるEL素子のイメージ図(上)と単一ポリフルオレン鎖のEL顕微イメージ(下)。

図1 ブロック共重合体薄膜からなるEL素子の
イメージ図(上)と単一ポリフルオレン鎖のEL
顕微イメージ(下)。

図2 単一ポリフルオレン鎖からの蛍光スペクトル(左)と電界発光スペクトル(右)。

図2 単一ポリフルオレン鎖からの蛍光スペクトル(左)と電界発光スペクトル(右)。


今後の展望

  ポリフルオレンを用いた有機ELの研究分野において、発光色変化の問題を解決したことは、次世代のディスプレイや照明を開発していく上でたいへん重要な成果です。本研究で発光色の変化の原因が解明されたことにより、ポリフルオレンや共役系高分子を用いた光電子デバイスの長寿命化が期待されます。さらに、このような電界発光特性を示す単一分子鎖に関する研究結果は、単一分子を用いた光電子デバイスの実現に向けた一歩になると考えられます。



関連する科研費

平成23-24年度挑戦的萌芽研究「共役系高分子の単一分子電界発光計測」
平成26-29年度基盤研究(B)「共役系高分子一本鎖のコンフォメーション制御による光電子物性の能動的制御」
平成26-30年度新学術領域研究(研究領域提案型)「分子集団の協同的光応答の分子レベル解明および動的制御」