事業の成果

写真:教授 長田 年弘

教授 長田 年弘

パルテノン神殿の彫刻の研究

筑波大学 芸術系 教授
長田 年弘

研究の背景

  紀元前5世紀に建立された、パルテノン神殿の装飾浮彫群の主題は、今日では一般に前5世紀前半に戦われたペルシア戦争を示唆していたものと解釈されています。つまり、パルテノン神殿は、アジアに対するギリシア世界の勝利を象徴するモニュメントとして、自由と民主主義を標榜する都市国家アテネを象徴的に表現していたとする意見が強い。しかし、こうした見方には、欧米の研究者に特有の、古代ギリシアに西洋文明の源流を認める歴史観が反映しているのではないかと私たちは考えました。欧米を中心とする歴史学者には、ギリシア古典文化の研究に関して「偉大な伝統」があるので、かえってそれが盲点になっているのではないか。

研究の成果

  共同研究では、前述のようなアジア対ヨーロッパという 二項対立の観点よりも、奉納や祭式という古代宗教の観点を重視して検討を進めました。現在、ロンドンの大英博物館に所蔵されているパルテノン神殿フリーズ浮彫には、女神アテナのための聖衣奉納の儀式場面が表されています。この作品には、儀式の場所や神々の臨席の描写など、美術史上の難問が山積しています。成果のひとつは、フリーズ浮彫の神々の立体復元の試みです。メンバーのひとり、中村るいさん(高知大学教育学部准教授)が中心となり、東京藝術大学美術解剖学研究室の協力を得て、浮彫で表された神々を小像で立体的に復元する作業を進めました。こうして、美術史学と歴史学そして美術解剖学という三分野にまたがる総合的な研究を進めました。そして、幸い、平成24年から25年にかけて、大英博物館のパルテノン彫刻展示室の隣室("Parthenon Now")において、私たちの研究成果を展示することができました。

今後の展望

  研究結果は、今年度内に、ウィーンの出版社(Phoibos Verlag)から論文集として出版される予定です。また、今後は、パルテノン神殿が建てられたアテネ、アクロポリスの丘の奉納品を調べる予定です。パルテノンの周囲には、かつてたくさんの奉納彫像が立ち並んでいたのですが、こうした彫像は、神殿彫刻の解明について重要な鍵を与えてくれると思われます。日本の調査隊独自の創造的な視点が得られるはずです。初心に帰って「歴史の見方を変える」研究を実現しようと話し合っています。



関連する科研費

平成19-21年度基盤研究(A)「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究―アジアの視座から見たギリシア美術」
平成23-26年度基盤研究(A)「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究-オリエント美術の受容と再創造の検証」
平成27年度研究成果公開促進費 "The Parthenon Frieze. The Ritual Communication between the Goddess and Polis. Parthenon Project Japan 2011-2014"
図1 パルテノン神殿 東正面より 2007年(筆者撮影)

図1 パルテノン神殿 東正面より 2007年(筆者撮影)

図2 ロンドン、大英博物館、パルテノン彫刻展示室における調査 2008年(筆者撮影)

図2 ロンドン、大英博物館、パルテノン彫刻展示室における調査 2008年(筆者撮影)

図3 ロンドン、大英博物館、パルテノン彫刻展示室における共同研究成果展示 2012年(筆者撮影)

図3 ロンドン、大英博物館、パルテノン彫刻展示室における共同研究成果展示 2012年(筆者撮影)