事業の成果

写真:部長 望月 直樹

部長 望月 直樹

リンパ球をリンパ組織から血管内に移動させるためのS1P 輸送体Spns2

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 細胞生物学部 部長
望月 直樹

研究の背景

  免疫を担当するTリンパ球やBリンパ球は、リンパ組織(胸腺・骨髄・リンパ節)から血管・リンパ管に入って全身を巡り、標的部位に到達することが機能を発揮するために必要です(図1)。リンパ球をリンパ組織から血管内に移動させるには、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)によるリンパ球の誘導が大事なことは知られていましたが、それをどのように行っているかは不明でした。

図1 リンパ球の炎症部位からリンパ組織への遊走 骨髄、リンパ節、胸腺などのリンパ組織から炎症部位(赤)にTリンパ球・Bリンパ球が遊走して免疫反応を起こします。"
図1 リンパ球の炎症部位からリンパ組織への遊走 骨髄、リンパ節、胸腺などのリンパ組織から炎症部位(赤)にTリンパ球・Bリンパ球が遊走して免疫反応を起こします。

研究の成果

  私たちは、S1Pを細胞内から細胞外へ輸送する輸送体としてSpns2(spinster 2)を発見しました。全身の細胞にあるSpns2の遺伝子を破壊し、Spns2の発現を抑えたマウスを調べたところ、胸腺・骨髄・リンパ節ではリンパ球数が増加していましたが、血液中ではリンパ球が減少していました。これは、Spns2によってS1Pが細胞外へ輸送されないと、リンパ球はリンパ組織から血中へ移行できないことを示しています。また、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞にあるSpns2遺伝子だけを破壊した場合でも、リンパ球の血中への移行が阻害されていました。この結果から、リンパ組織の血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞に発現するSpns2は、S1Pを血管腔外あるいはリンパ管腔外に向かって輸送することで、リンパ球を血管やリンパ管内に移動させる機能を果たしていることがわかりました(図2)。

図2 血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞に発現するSpsn2 リンパ組織(胸腺、リンパ節)に存在するリンパ球は、血管(胸腺)あるいはリンパ管(リンパ節)内に入ることにより全身循環に入ります。このとき、血管内皮細胞・リンパ管内皮細胞に発現するSpsn2リンパが腔外に向けてS1Pを輸送することで、リンパ球に発現するS1P受容体を活性化して、腔内への遊走を促します。そのため、内皮細胞に発現するSpsn2が免疫機能では重要です。 図2 血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞に発現するSpsn2 リンパ組織(胸腺、リンパ節)に存在するリンパ球は、血管(胸腺)あるいはリンパ管(リンパ節)内に入ることにより全身循環に入ります。このとき、血管内皮細胞・リンパ管内皮細胞に発現するSpsn2リンパが腔外に向けてS1Pを輸送することで、リンパ球に発現するS1P受容体を活性化して、腔内への遊走を促します。そのため、内皮細胞に発現するSpsn2が免疫機能では重要です。

今後の展望

  自己免疫性疾患や多発性硬化症では、血管やリンパ管にリンパ球を過剰に集積することが病態の本質となっています。そこで、Spns2の機能を阻害すれば、リンパ球の標的組織への遊走を阻害し、病気を治療できる可能性があります。

  多発性硬化症モデル動物でSpns2を抑制したときの病態の変化を観察することによって、Spns2を標的とした治療の可能性を探りたいと考えています。



関連する科研費

平成24-26年度基盤研究(B)「スフィンゴシン1-燐酸輸送体Spns2の哺乳類での機能」
平成22-26年度新学術領域研究(研究領域提案型)「ライブイメージングによる血管-神経ワイヤリングの誘導・維持機構の解明」