事業の成果

写真:教授 河岸 洋和

教授 河岸 洋和

フェアリー化合物
―「フェアリーリング(妖精の輪)」の妖精の正体は?―

静岡大学 グリーン科学技術研究所 教授
河岸 洋和

研究の背景

  公園やゴルフ場などで芝生が輪状に周囲より色濃く繁茂し、時には逆に輪状に生長が抑制され、後にそこにキノコが輪の形になって発生する現象があります(図1)。この現象は、フェアリーリング(fairy rings、妖精の輪)と呼ばれ、西洋の伝説では、妖精が輪を作り、その中で踊ると伝えられています。1675年にフェアリーリングに関する最初の科学的論文が発表され、その論文が1884年のNature誌に紹介されて以来、長い間その妖精の正体(芝を繁茂させる原因)は謎のままでした。

図1 輪状に色濃く繁茂したフェアリーリング 図1 輪状に色濃く繁茂したフェアリーリング

研究の成果

  そこで、私たちは、その妖精の正体を明らかにしようと試みました。まず、フェアリーリングを起こすコムラサキシメジという菌を培養して、その培養液から芝の生長を促進する物質「2-アザヒポキサンチン(2-azahypoxanthine、AHX)」を発見し、さらに、芝の生長を抑制する「イミダゾール-4-カルボキシアミド(imidazole-4-carboxyamide、ICA)」も見つけました。また、AHXは植物に取り込まれると、2-アザ-8-オキソヒポキサンチン(2-aza8-oxohypoxanthine、AOH)になることが判明しました(図2)。これら3つの化合物を、Nature(505巻、298頁、2014年)がこの研究を紹介した記事の見出し“fairy chemicals”から「フェアリー化合物」と命名しました。

  このフェアリー化合物は、あらゆる植物の生長を制御したことから、私は「植物自身もフェアリー化合物を作っているのではないか?」と考え実験を行ったところ、予想通りの結果を得ました。例えば、三大穀物である米、小麦、トウモロコシの可食部にもフェアリー化合物が存在していました。つまり、私たちは毎日フェアリー化合物を食べていることになります。さらに、フェアリー化合物は、米、小麦などの穀物や野菜類の収量を大幅に増加させることがわかりました。しかも、低温、高温、塩、乾燥などの栽培の悪条件下でさらにその効果を発揮します。現在、フェアリー化合物の実用化に向けた研究を静岡大学の農場で行っています。

図2 フェアリー化合物の構造 図2 フェアリー化合物の構造

今後の展望

  植物に普遍的に存在し、生長促進活性をもつことから、フェアリー化合物は新しい「植物ホルモン」であることや、作物を増産させ、悪環境下でも作物を栽培できる新しい「農薬(植物生長剤)」の開発につながることが期待されています。

  フェアリー化合物が新しい植物ホルモンと認知されるように、植物体内におけるフェアリー化合物の生合成経路や代謝経路を明らかにしていきたいと考えています。また、民間企業と共同でフェアリー化合物の実用化に向けた研究を進めています。



関連する科研費

平成18-19年度特定領域研究「キノコからの生体機能分子の探索とその作用機構解明」
平成24-25年度新学術領域研究(研究領域提案型)
「菌類が他の生物に及ぼす「異常」を惹起する分子の探索とその活性発現機構の解明」