事業の成果

写真:教授 杉村 明彦

教授 杉村 明彦

NMRを用いた柔構造液晶ダイレクタの空間配向分布に関する研究

大阪産業大学 デザイン工学部 教授
杉村 明彦

研究の背景

  液晶材料は、大画面薄型テレビとして実用化され、さらに新たな機能性デバイスへの応用に向けた研究・開発が進められています。この液晶材料の機能性を決定する要素である、配向秩序度、相転移温度、ダイレクタ配向(液晶分子が平均として向いている方向)や種々の異方性などの基礎物性評価法の1つとして、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)分光法が広く用いられています。近年、NMR分光計の受信感度が向上し、わずか数マイクロメートルの液晶薄膜中でもダイレクタ配向の測定が可能になっています。しかし、磁気異方性をもつ液晶分子は、強磁場中に置かれたNMRプローブ中で磁場に対して一定方向に配向してしまいます。このため、NMR分光法では、数秒より速い回転応答性をもつ低分子系液晶材料のダイレクタの動きを観測することが困難でした。

研究の成果

  本研究では、強磁場が存在するNMRプローブ中に設置した液晶サンドイッチセルに電場を印加して(電場重複印加NMR法)、液晶ダイレクタ配向の非平衡状態を制御できるようにしました。これにより、ダイレクタ回転緩和過程におけるダイレクタ空間分布を数百マイクロ秒の時間分解で測定することが可能になりました。

  NMR分光法では、液晶分子の特定スピン核種からの共鳴信号の総和としてスペクトルが観測されるため、液晶ダイレクタがさまざまな方向に配向しているときは、それぞれの配向方向に対応した共鳴スペクトルの単純な総和としてNMRスペクトルが得られます(図1)。このNMRスペクトルは液晶ダイレクタの静的・動的な空間配向分布に関する直接情報を含んでいるため、NMRスペクトルを解析することによって液晶材料の配向分布を評価できます。

  また、液晶ダイレクタの静的・動的挙動は、液晶セル基板表面でのアンカリング強度、磁気トルク、電気トルク、弾性トルク、粘性トルクなどの影響を受けています。このため、電場重複印加NMR法を用いると、それぞれのトルクを決定する液晶材料の物理定数を測定することができます。さらに、スピン核種として重水素を用いる重水素化NMR分光法によって液晶分子の特定サイトを重水素化すると、任意の分子サイトの空間配向分布や動的挙動を独立して同時に測定できるようになりました。特に、磁場と電場が直交する系では、それぞれのエネルギーを等しく制御すると、液晶への外場の影響を最小限に抑えることができます(図2)。この電場重複印加-重水素化NMR法によって、液晶ダイレクタの自発的な“ゆらぎ”の観測も可能になりました。

図1 観測される重水素化NMRスペクトルの例 (a)液晶サンドイッチセル断面におけるダイレクタ配向分布の模式図、(b)それぞれのダイレクタ配向角に対応したスペクトル、(c)共鳴スペクトルの単純総和として観測されるNMRスペクトル

図1 観測される重水素化NMRスペクトルの例 (a)液晶サンドイッチセル断面におけるダイレクタ配向分布の模式図、(b)それぞれのダイレクタ配向角に対応したスペクトル、(c)共鳴スペクトルの単純総和として観測されるNMRスペクトル

図2 電場重複印加-重水素化NMR分光法による非平衡状態での液晶ダイレクタ配向緩和過程の評価 (a)ダイレクタ配向方向は磁場に平行、(b)電場印加によるダイレクタ配向分布の回転緩和過程、(c)ダイレクタ配向方向は電場に平行

図2 電場重複印加-重水素化NMR分光法による非平衡状態での液晶ダイレクタ配向緩和過程の評価 (a)ダイレクタ配向方向は磁場に平行、(b)電場印加によるダイレクタ配向分布の回転緩和過程、(c)ダイレクタ配向方向は電場に平行


今後の展望

  電場重複印加NMR法は、液晶材料だけでなく、磁気的・誘電的異方性を有する有機分子(低分子から高分子まで広範囲)の基礎物性評価法として利用されることが期待されます。さらに、自己組織化により興味深い生体機能性を示す両親媒性液晶の材料開発において、電場重複印加-重水素化NMR法を用いて、無水ライオトロピック液晶の新たな機能性の発現につながる基礎研究を進めていきたいと考えています。



関連する科研費

平成12-14年度基盤研究(B)「分子記憶素子としてのナノ界面分子膜上での液晶ダイナミクス機構とその制御」
平成15-18年度基盤研究(B)「ナノ局在化分子機能素子に向けた極微アンカリング界面での液晶分子サイトの制御」
平成24-27年度基盤研究(B)「柔構造液晶ダイレクタの空間配向分布機構の解明と制御に関する研究」