事業の成果

写真:教授 栗原 和枝

教授 栗原 和枝

ナノ空間に閉じ込められた液体の性質はどう変わるか

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 教授
栗原 和枝

研究の背景

  2枚の板(固体基板)の間に液体を挟み、その間隔をナノメートルレベルまで小さくすると、その液体の性質は通常のバルクとは大きく変わることが、最近、分かってきました。分子の動きが制限され、また板と分子との相互作用により、液体分子がより規則的に並んで固体に近い構造をとる構造化という現象のためと考えられています。しかし、具体的にどのような間隔で、どう性質が変わるのかはまだよく分かっていません。この特性を明らかにすることは、物質科学の基礎からも、潤滑技術ならびにナノインプリンティング(微細加工技術)など先端技術の開発にも必要です。

研究の成果

  私たちは、表面の間に働く相互作用を表面間の距離を変えながら測る「表面力測定」という研究をしています。この測定には、距離を0.1ナノメートルの精度で制御し、測る技術が必要です。この距離制御技術を用いて、液体を挟む基板間の距離を制御しながら、一方の基板をバネでブランコのように吊り、横にずらしてその時の応力を測るずり測定ができます。私たちは、共振を用いる独自の手法(共振ずり測定法、図1)を開発して、狭い空間の液体の構造化・粘性・潤滑性などの性質を調べています。

  雲母の間のNaCl水溶液を測定した例では、間隔が1ナノメートル以下で、水の粘度がバルクに比べて100から1万倍増大することを初めて観測しました。これは、雲母の表面に結合したNaイオンの水和層の粘度を見たものと考えています(図1)。雲母間の水の特性についてのこの研究は、測定の実施時にあった論争を決着させたデータです。また、最近注目されているイオン液体について、同じ陽イオンで異なる陰イオンを持つ2種のイオン液体のシリカ表面間の挙動を調べたところ、バルク粘度の大きさは[C4mim][NTf2]<[C4mim][BF4]なのに対して、ナノ空間での粘度は逆に[C4mim][BF4]<[C4mim][NTf2]となることがわかりました。同様に、ナノ空間の粘度の大小関係がバルクとは異なる場合が、潤滑油をはじめとして多くの液体で報告されており、直接計測することの重要性がわかります。

  また、ナノ空間では、電場による液晶の配向変化が進まないなど、面白い競争効果も見出しています。これは、液晶ディスプレイの精密化の限界を考える上でも重要なデータです(図2)。

図1 共振ずり測定を用いた雲母間のNaCl水溶液の特性評価

図1 共振ずり測定を用いた雲母間のNaCl水溶液の特性評価

図2 液晶における電場配向と閉じ込めの競争効果

図2 液晶における電場配向と閉じ込めの競争効果


今後の展望

  この研究を進めて、今まで具体的な理解が及んでいない固ー液界面を、分子レベルで理解する新しい学術領域を作りたいと思います。この研究の手法は、様々な実用材料にも適用でき、微粒子分散系のレオロジー挙動について新しいメカニズムを提案してきました。また、化粧品に含まれる界面活性剤溶液の感触なども研究することができます。現在では、特に、狭い空間での潤滑油の特性を評価し、摩擦を低減する基材や潤滑油の設計に貢献したいと考えています。



関連する科研費

平成14-15年度基盤研究(B)「微細空間の液体の構造評価法の開発」
平成20-22年度基盤研究(A)「固体表面間の束縛液体のナノレオロジー・ナノトライボロジーの研究」