事業の成果

写真:教授 夛田 博一

教授 夛田 博一

1個の分子の電気伝導度を測る

大阪大学 基礎工学研究科 教授
夛田 博一

研究の背景

  1974年に提案された分子整流器(ダイオード)の概念(A. Aviram and M. Ratner, Chem. Phys. Lett. 29, 277, 1974)は、多くの研究者の興味をひき、分子の設計技術と電極-分子-電極構造の作製および電気特性計測技術の進展をもたらしました。特に2000年以降、ブレークジャンクション法と呼ばれる、分子の存在下で、電極の接触と破断を繰り返して行うことで電極-分子-電極構造を形成する方法の確立により、個々の分子の電気特性を定量的に議論できるようになってきました。

研究の成果

  図1は、分子導線としての機能を持たせることを目的として設計・合成された分子で、電気伝導を担うチオフェンワイヤー部と、その外側を、あたかもビニールで被覆された導線のように、シリコン骨格で覆う構造をとる工夫がされています。

  図2は、この分子ワイヤーを試料とし、ブレークジャンクション法を用いて、電極-分子-電極構造を作製し、その電気伝導度の温度依存性を測定した結果です。この図を完成させるのに、1年ほどかかっています。短い分子は電気伝導度が温度依存性を示さず、トンネル伝導が支配的であるのに対し、長い分子は熱活性型のホッピング伝導を示すことがわかりました。面白いのは、長さが中間の分子で、トンネル伝導からホッピング伝導へ切り替わっているのが確認されました。

  さて、電極-分子-電極構造の電気伝導度を計測することができるようになりましたが、この時のキャリアは、電子ですか?正孔ですか?という質問をいただくことが多くありました。それを明らかにすべく、2つの電極に温度差を与えその時に発生する電圧からゼーベック係数を求めることを試みました。その結果、図1の分子ワイヤーは、いずれもゼーベック係数が正となり、正孔がキャリアであると判断することができました。

図1 分子ワイヤーの構造。5員環の数と分子鎖長は、上から順に、5個(2.1nm)、8個(3.3nm)、11個(4.4nm)、14個(5.7nm)。5員環23個、分子鎖長9nmの分子まで計測しました。

図1 分子ワイヤーの構造。5員環の数と分子鎖長は、上から順に、5個(2.1nm)、8個(3.3nm)、11個(4.4nm)、14個(5.7nm)。5員環23個、分子鎖長9nmの分子まで計測しました。

図2 オリゴチオフェン分子ワイヤー(5員環数5、14、および17)の電気伝導度の温度依存性。縦軸は、コンダクタンス各温度でのGを量子化コンダクタンスG<sub>0</sub>=2e<sup>2</sup>2/h(=77.4µS)との比で表したもの。

図2 オリゴチオフェン分子ワイヤー(5員環数5、14、および17)の電気伝導度の温度依存性。縦軸は、コンダクタンス各温度でのGを量子化コンダクタンスG0=2e22/h(=77.4µS)との比で表したもの。


今後の展望

  1974年の分子ダイオードの提案から40年を経て、ようやく分子の電気伝導度を計測することができるようになってきました。ダイオード特性を示す分子も設計・合成されています。電極として強磁性体を用い、磁気抵抗効果の考察も行われています。精密な計測が可能になるにつれて、系のノイズやゆらぎの議論もできるようになってきています。

  日本の分子設計および合成は、世界でもトップレベルであり、化学と物理、電子工学や物性理論の連携により、個々の分子の個性を活かした機能設計を行っていきます。



関連する科研費

平成23-24年度挑戦的萌芽研究「単一分子の磁気抵抗効果の計測」
平成25-29年度新学術領域研究(研究領域提案型)「単一分子および分子組織体のスイッチング機