事業の成果

写真:准教授 朴 姫淑

准教授 朴 姫淑

元受刑者の社会的包摂と刑事施設における社会福祉士の役割

旭川大学 保健福祉学部 准教授
朴 姫淑

研究の背景

  受刑者の大半はいずれ地域社会に戻ります。しかし、地域社会は受刑者の社会復帰を本人と司法当局のみに任せてきた経緯があります。そうした状況で、高齢者や障害者が再犯によって刑事施設に戻ってしまう問題を解決するために、刑事施設に社会福祉士が配置されることになりました。矯正を目的とする刑事施設に福祉専門職が入るのは画期的なことです。刑事施設で社会福祉士はどのような役割を担っており、どのような可能性と制約を抱えているのか、また、そうした社会福祉士の役割が元受刑者の社会的包摂にどのような効果をもたらすのか、という問題意識が研究の背景にあります。

研究の成果

  刑事施設では、社会福祉士の配置に対して評価とともに戸惑いが読み取れました。現場での社会福祉士に対する面接調査では、受刑者の社会復帰を支援する専門職として、刑事施設の制度や慣例によって仕事の制約があることが分かりました。実際、身寄りのない高齢者や障害者の社会復帰支援は、どの施設でも同じように行われていますが、社会福祉士の業務内容や裁量には施設間で格差がありました。刑事施設では、社会福祉士と刑務官との間に、認識の差異が存在しており、受刑者全般の社会復帰支援にまでは至っていないのが現状です。また、社会福祉士は、刑事施設の中で、毎年契約を更新する非常勤職員としてごく限られた業務に従事していることも改善の余地があると思います。さらに、刑務所と地域社会との連携の仕組みを、制度的にも関係者の間でもより拡充させる必要があると思います。

  一方、イギリスやカナダの調査からは、保安職と医療・福祉職との認識の共有のもとで、受刑者の身体的・精神的健康状態の劣悪さや自殺者数の多さなどの実態について、刑事施設と社会一般との間には大きな情報格差があることを浮き彫りにしつつ(図1)、刑事施設の矯正プログラムに対する地域社会の参加が進んでおり、刑事施設に対する地域社会の継続的支援の仕組みが定着していること(図2)が見られました。

図1 EPSU /RCN Prison Services Network Conference, 25-26-27 February 2015
©European Federation of Public Service Unions

図1 EPSU /RCN Prison Services Network Conference, 25-26-27 February 2015
©European Federation of Public Service Unions

図2 'Campus Style' Prison, Wilkinson Road Jail, Victoria, BC, Canada©Scott Dempsey

図2 'Campus Style' Prison, Wilkinson Road Jail, Victoria, BC, Canada
©Scott Dempsey


今後の展望

  今後、刑事施設における社会福祉士の役割が徐々に拡大することが期待されます。そのためには、施設ごとに孤立している社会福祉士の経験を総合化する作業や司法と福祉との連携の取り組みを制度や現場レベルで検証していくことが欠かせないと思います。また、日本の現状を正しく評価してより健全なものにする1つの方法として、海外の矯正システムや経験に関する研究を並行して進めていきたいと考えています。



関連する科研費

平成24-26年度挑戦的萌芽研究「元受刑者の社会的包摂と刑事施設における社会福祉士の役割に関する研究」