事業の成果

写真:教授 三森 功士

教授 三森 功士

「固形癌における転移巣形成社会の解明にむけて」

九州大学病院別府病院 外科 教授 
三森 功士

研究の背景

  固形癌症例では現在の技術レベルでは検出不可能な潜在的癌細胞が根治術にも拘わらず存在し、治療抵抗性を獲得し転移を完遂する能力を有することが示唆されています。私たちは1995年に病理診断転移陰性リンパ節において微量癌細胞が存在することを報告し(Mori M. Mimori K.,et al. Cancer Res 1995)、末梢血液中あるいは骨髄中における遊離癌細胞の存在と臨床的意義を明らかにしてきました。その後の本分野に関する多くの基礎的研究から、転移巣の成立には癌細胞のみならず宿主側因子を含めた包括的概念が重要であることが改めて示されたことから、臨床検体を用いて癌の転移再発成立機構の解明について取り組んできました。

研究の成果

  H19-20年度に文科省科学研究費の基盤研究(B)を助成いただき、胃癌患者の骨髄中遊離癌細胞は確かに存在するが、遊離癌細胞と骨髄前駆細胞とが骨髄中に共存する症例においてのみ血行性転移が多いことを明らかにしました(図1)(Clin Cancer Res 2008ほか)。次にH21年度基盤研究(A)、H21-22年度若手研究(S)を受けて胃癌進展において最も問題となる腹膜播種に関しては、癌細胞・宿主側細胞両者でmiR760が過剰発現し、histoneの代謝に関与することを明らかにしました(Clin Cancer Res 2013ほか)。一方、大腸癌においても癌細胞側からのシグナルを受けたマクロファージが癌細胞の転移、再発に関与することを明らかにしました(Takano Y,投稿中)。乳癌では宿主側細胞由来のサイトカインCCL2がマクロファージを集積し転移巣形成に寄与することを明らかにしました(J Clin Invest 2015)。癌細胞側ではEMTを誘導し癌進展の早期から過剰発現する遺伝子PLS3を同定しました(図2)(Cancer Res 2011ほか)。

図1 胃癌の血行性転移における宿主側ニッチの役割:胃癌患者の末梢血液中において遊離癌細胞と骨髄前駆細胞とが併存する症例群は、それ以外の症例群に比べて有意に肺肝転移率が高い。
図1 胃癌の血行性転移における宿主側ニッチの役割:胃癌患者の末梢血液中において遊離癌細胞と骨髄前駆細胞とが併存する症例群は、それ以外の症例群に比べて有意に肺肝転移率が高い。
図2 大腸癌末梢血液中EMT誘導遺伝子PLS3の発現の臨床的意義:上段は、大腸癌の予後曲線の図であるが、たとえリンパ節転移のない第2病期であってもPLS3発現の有無により悪性度を分けることができた。また、下段はPLS3遺伝子を癌細胞に形質導入したところ上皮間葉移行(EMT)を誘導できることを示した実験である。
図2 大腸癌末梢血液中EMT誘導遺伝子PLS3の発現の臨床的意義:上段は、大腸癌の予後曲線の図であるが、たとえリンパ節転移のない第2病期であってもPLS3発現の有無により悪性度を分けることができた。また、下段はPLS3遺伝子を癌細胞に形質導入したところ上皮間葉移行(EMT)を誘導できることを示した実験である。

今後の展望

  転移再発成立に関与する宿主側因子を明らかにできれば「根治術後の再発予防」という夢につながることが期待されます。また、転移能力を有する癌細胞を特定できれば微小転移根絶を目指した治療を勘案する上で極めて重要です。
  今後はpublic databaseあるいは独自のデータベースを用いて数理統計学的解析を行い、in vitro, in vivoモデルで検証を進め、真の診断または治療標的分子を明らかにしたいと考えています。



関連する科研費

平成19-20年度基盤研究(B)「癌患者の骨髄・末血中における遺伝子発現解析よりみた転移機構の解明」
平成21年度基盤研究(A)「大規模症例における消化器癌転移メカニズムの網羅的・統合的解析」
平成21-22年度 若手研究(S)「マイクロRNAを介した消化器癌転移カスケードの解明」