事業の成果

写真:准教授 中鉢 淳

准教授 中鉢 淳

「動物でみつかった「新規オルガネラ」進化」

豊橋技術科学大学 エレクトロニクス先端融合研究所 准教授
中鉢 淳

研究の背景

  酸素呼吸の場である「ミトコンドリア」や、光合成を行う「葉緑体」といった「オルガネラ(細胞小器官)」は、太古の単細胞生物に取り込まれた共生細菌の末裔です。こうしたオルガネラの成立過程では、共生細菌自身や、その他の細菌から宿主ゲノムに遺伝子が移行し、移行した遺伝子からタンパク質の合成が可能となり、さらに、合成されたタンパク質を共生細菌に運ぶ輸送系が進化する必要がありました。中でも、多数の遺伝子の関わるタンパク質輸送系の進化が最も困難と考えられており、長らく「細菌」と「オルガネラ」を区別する指標とされてきました。

研究の成果

  今回私たちは、オミックス解析や免疫化学的解析を行うことで、
①農業害虫として名高い「アブラムシ」が、細菌から遺伝子を獲得し、これを用いて実際にタンパク質を合成していること、
②その合成は、アブラムシの生存に欠かせない共生細菌をすまわせる特殊な細胞のみで起きること、
③宿主細胞の細胞質で合成されたタンパク質を共生細菌に運ぶ細胞内輸送系が進化していること、を明らかにしました。
  これは、太古の単細胞生物で起きたオルガネラ進化と同様の進化が、多細胞生物である動物の中でも起きていることを示すもので、生物学の常識を覆す、世界初の発見です。細胞内共生に基づくオルガネラの成立は、系統的に無関係な複数の生物が融合する、究極の例です。今回の成果は、「タンパク質輸送系の進化」が異系統生物間の融合にとって鍵であるとのこれまでの仮説を支持する一方、この進化が、オルガネラの成立過程のみで起きた例外的な事象ではないことを示します。

今後の展望

  この共生系における、共生細菌への特異的なタンパク質輸送系について理解を深めることで、将来的には、遠縁の生物を融合させる画期的な生命工学技術の開発などにつながるものと期待されます。また、この共生系は、アブラムシの生存に必須である一方、周辺環境中の他の生物には存在しないため、環境負荷が低く安全な、新規害虫防除法の開発の標的としても有望です。今回の成果は、アブラムシの生存を支える共生の仕組みの核心に迫るもので、近い将来、新たな防除法の開発に結びつくものと期待されます。



関連する科研費

平成24-25年度新学術領域研究(研究領域提案型)「オルガネラ様共生体に輸送される宿主動物由来タンパク質の機能解析」
図1 細菌と一体化するアブラムシ。雌成虫が幼虫を産み出している。

図1 細菌と一体化するアブラムシ。雌成虫が幼虫を産み出している。

図2 今回明らかとなった、アブラムシと細菌との融合機構。

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