事業の成果

写真:助教 井上 英治

助教 井上 英治

「DNA が解き明かす類人猿の社会」

京都大学 理学研究科 助教
井上 英治

研究の背景

  ヒトの社会の起源を解明するために、ヒトに近いアフリカ類人猿(ゴリラ属、チンパンジー属)の研究が行われてきました。観察のデータを積み重ねることにより、チンパンジーは複数の雄と複数の雌を含む集団で暮らす(図1)のに対し、ゴリラは通常、1頭の雄と複数の雌を含む集団で暮らしている(図2)ことが明らかになっています。両属とも、雌が生まれた集団から出ていくという特徴がありますが、チンパンジーでは雄が集団に残るのに対し、ゴリラでは雄も生まれた集団を離れます。では、ゴリラの雄は集団を離れた後、どれくらい遠くへ行くのでしょうか? もし、生まれた集団の近くに留まっているならば、ゴリラの地域集団は、チンパンジーの集団と似たような遺伝構造になっている可能性が考えられます。そこで、糞(ふん)からDNAを抽出して分析することにより、彼らの遺伝構造を調べることにしました。

図1チンパンジーの集団

図1 チンパンジーの集団
集団内に複数の雄(青)と複数の雌(ピンク)と子ども(緑)がいる。

図2 ゴリラの地域集団

図2 ゴリラの地域集団
集団には1頭の雄(青)と複数の雌(ピンク)と子ども(緑)がいる。それ以外に群れに属さない単独の雄もいる。

研究の成果

  タンザニア、マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーM集団は、日本の研究チームが40年以上にわたって研究を継続している集団です。その集団の遺伝構造を調べたところ、雌雄の移籍のパターンから予想される通り、雄間の方が雌間より遺伝的に類似している(血縁度が高い)ことが明らかになりました。
  次に、日本の研究チームが調査を開始して10年以上になる、ガボン、ムカラバドゥドゥ国立公園のニシローランドゴリラの遺伝解析を行いました。数集団の行動圏を含む調査域内で採取したゴリラの糞試料を解析したところ、雄間の方が雌間より遺伝的に類似していることはなく、雄同士は遺伝的に異なることがわかりました。つまり、オスが生まれた集団から遠くへ分散している可能性が高く、チンパンジーとは遺伝構造が異なるようです。

今後の展望

  ゴリラ属は、2種4亜種に分類されていて、亜種間で社会に多様性があることがわかってきています。現在、ヒガシローランドゴリラでもニシローランドゴリラと同様の研究を進めており、雄の分散の仕方が両亜種で異なっているかどうかを明らかにしようとしています。さらに、DNA分析を行うことで、個体間が近縁であるかどうかを判別できるので、血縁が行動に与える影響も調査できます。そのような研究を通じ、アフリカ類人猿の社会の共通点や相違点を明らかにし、ヒトの社会の進化について考察していきたいと考えています。



関連する科研費

平成19-22年度基盤研究(A)「野生チンパンジーにおける文化的行動の発達と新奇行動の流行現象」(研究協力者)
研究代表者:西田利貞(京都大学)
平成23-25年度若手研究(B)「ゴリラのコミュニティ構造の解明」
平成24-28年度 基盤研究(A)「アフリカ類人猿のコミュニティの構造と進化」(研究分担者)研究代表者:山極寿一(京都大学)