事業の成果

写真:准教授 百武 慶文

准教授 百武 慶文

「数値的方法を用いた「ゲージ・重力対応」の検証」

茨城大学 理学部 准教授
百武 慶文

研究の背景

  重力の研究は物理学の発展において非常に重要な役割を果たしており、特に現在ではアインシュタインの一般相対性理論によって、天体の運動や宇宙の進化が精密に議論されるようになってきました。一方で、現代物理学では原子サイズ程度の小さいスケールでは量子論が重要になりますが、量子論を一般相対性理論に適用すると破綻することが分かっています。これは現代物理学の根幹に関わる問題なので、多くの研究者によって研究が重ねられました。その結果、素粒子に弦の構造を持たせる「弦理論」では、この問題を解消できる可能性があることが分かりました。「弦理論」は、重力を含む力の統一理論として日本人を含む多くの研究者によって1980年代以降急速に発展し、さらに1990年代後半には、量子論の物理量と重力理論の物理量には対応関係があることが、プリンストン大学のマルダセナによって予想されました。これは標語的に「ゲージ・重力対応」と呼ばれており、「ホログラフィック原理」の具体例となっています(図1)。

図1「ホログラフィック原理」のイメージ図
図1 「ホログラフィック原理」のイメージ図

研究の成果

  私は、伊敷吾郎助教(筑波大学)、花田政範准教授(京都大学)、西村淳准教授(KEK・総研大)と共同で「ゲージ・重力対応」の理論的検証を行いました。これまでにも世界中で多数の検証研究が行われましたが、私たちの研究は以下の点で他の追随を許さないものです。
①弦理論における重力の量子効果を摂動的に取り入れて、ブラックホールを含む時空を解析した。
②量子論における準安定状態を数値シミュレーションで構成し、非摂動的な効果を取り入れて解析した。
  共同研究では、私がブラックホールのエネルギーを温度の関数として解析的に求め、他の3氏が量子論における準安定状態のエネルギーを数値シミュレーションで求めました(図2)。その結果、「ゲージ・重力対応」が重力の量子効果を含めて成立していることが、数値的に明らかになりました。

図2 「ゲージ・重力対応」の検証結果
図2 「ゲージ・重力対応」の検証結果

今後の展望

  今回の論文は、素粒子論の分野としてはきわめて稀なことにScience誌に掲載され、幸いにも多くの人々に興味を持ってもらうことができました。この研究によって重力の量子効果の解析が前進したと感じています。今後は、数値結果などを参考にしながら「弦理論」における量子重力の効果を解析的に調べることによって、「ゲージ・重力対応」の解析的な証明を進展させたいと考えています。また、ブラックホールの終状態や宇宙の始まりの問題などを解明する手がかりを得たいと考えています。



関連する科研費

平成19-22年度若手研究(B)「M理論の有効作用の導出およびそれに基づく重力の量子論的性質の解明」
平成24-27年度若手研究(B)「超弦理論におけるゲージ・重力対応の直接検証および重力の量子論的性質