事業の成果

写真:教授 岩下 明裕

教授 岩下 明裕

「地球大国研究とボーダースタディーズ:個人研究から社会実践へ」

北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター 教授
岩下 明裕

研究の背景

  職を得たばかりの1994年、科研費はまだ遠い存在でした。何度も申請を試みましたが、厳しい評価で跳ね返されました。そんなとき、「完成したプロジェクトのイメージから遡って書類を書くこと」と先輩から助言を得ました。困難はそのイメージを得る原資をどうするかですが、結論は、ボーナスをつぎ込むなど身銭をきって調査・研究をすることです。そのおかげかどうか定かではないのですが、最初に採択された科研費は奨励研究(A)「中国・ロシア関係と国境地域協力」 1999-2000年度でした。次いで基盤研究(C)も採択され、個人研究としては十分な額をいただき、モスクワ、北京、中ロ国境地域にせっせと通いました。そして、ロシアと中国の地域大国関係を国境(ボーダー)から読み解いた『中・ロ国境4000キロ』(角川選書)を2003年に上梓しました。

研究の成果

  中ロ双方が国境問題を現場や双方の利益を考慮して、係争地を「フィフティ・フィフティ」で分け合う解決法に到達したプロセスを分析し、解決が地域に暮らす人々にもたらした恩恵を明らかにしました(図1)。次にその解決法を日ロ関係に応用したらどうなるかという問題提起を行いました。択捉(えとろふ)島をロシアに国後(くなしり)島ほか三島を日本に、としたシミュレーションは学界を越えて実務やメディアにも衝撃を与えました(『北方領土問題』中公新書)。この研究は、その後、竹島や尖閣など日本の領土問題全般の解決への提言、境界に面した北海道、沖縄などの自治体と組んだ社会実践(境界地域研究ネットワークJAPAN)を生み出しました。
  さらに、ボーダーを軸に地域大国や国際関係を読み解いてみようと考えました。研究は進化し、ユーラシアを陸と海の両面からとらえ、焦点が中央陸域から南北海域へとシフトするモデル抽出を行いました(図2)(『ユーラシア国際秩序の再編』ミネルヴァ書房)。この研究は、陸海域の境界問題を包摂した国際関係の諸研究を統合する、北米や欧州の学会(Association for Borderlands Studiesなど)と連携したプログラム(新学術領域研究・ユーラシア地域大国の比較研究「国際秩序の再編」)という形で結実しました。

図1 係争地を「フィフティ・フィフティ」に分け合って解決

図1 係争地を「フィフティ・フィフティ」に分け合って解決

図2 ユーラシア陸海域と紛争シフト

図2 ユーラシア陸海域と紛争シフト

今後の展望

  科研費はそもそも個人としての自由な研究を担保するものですが、スケールは社会貢献や学界の創出、大学組織の 改編にもインパクトをもつものです。日本では馴染みのなかった地域大国の比較やボーダースタディーズといった学問領域が創出され、その波は全国へ広がり、この4月には、九州大学アジア太平洋未来研究センターでボーダースタディーズ・モジュールが始動します。科研費による本研究の挑戦を、今後も長い射程と大きなダイナミズムで進めていきたいと考えています。



関連する科研費

平成18-21年度基盤研究(A)「ユーラシア秩序の新形成:中国・ロシアとその隣接地域の相互作用」
平成20-24年度新学術領域研究(研究領域提案型)「国際秩序の再編」
平成26-29年度 基盤研究(A)「ボーダースタディーズによる国際関係研究の再構築」