事業の成果

写真:川口孝泰教授

教授:川口 孝泰

「多分野融合による在宅医療を支える「遠隔看護システム」の開発 」

筑波大学 医学医療系 教授
川口 孝泰

研究の背景

  急速な少子高齢化により、医療を取り巻く環境は「病院完結型」から地域全体で支え合う「地域完結型」への移行が進展しています。このような状況の中で、情報化社会における地域医療を支えるインフラの1つとして、「遠隔看護」の実用化が進んでいます。その実用化には、看護学だけではなく、人間工学、情報学など学融合的視点からの取り組みが必要です。私は、科学研究費の助成により、「遠隔看護システム」の開発(図1)および、それらの効果的運用のために必要なセンシング技術の開発を進めています。

図1 クラウドベースによる遠隔看護のイメージ図
情報のリアルタイムの一元化により、患者と医療者/福祉従事者間の認識のギャップを軽減し、情報共有作業での手間を省き、円滑な在宅ケアを実現するクラウド型情報共有システムをつくる。
図1 クラウドベースによる遠隔看護のイメージ図
情報のリアルタイムの一元化により、患者と医療者/福祉従事者間の認識のギャップを軽減し、情報共有作業での手間を省き、円滑な在宅ケアを実現するクラウド型情報共有システムをつくる。

研究の成果

  遠隔看護では、糖尿病患者を対象に遠隔看護による自己管理を実施し介入効果を検証しました。その方法として、毎日のセルフモニタリング(バイタルサインの測定や記録)と、週に2回のオンデマンド方式によるテレビ電話での介入、電子メールによる日々の健康相談などを6カ月間行いました。その結果、対象の自己管理行動が促進し、自己効力感の向上、生化学データの改善が見られました。そして、遠隔看護は、在宅医療における看護技術として、その有効性が示唆されました。
  また、遠隔看護で使用するセンシング技術の開発(加圧脈波装置)に関する基礎研究も行っています。装置は指尖容積脈計を改良したもので、指先に圧迫を加える過程(指先を圧迫する)で生じる血流量の変化、血管の柔らかさ、血管内皮の神経系の状態、拍動のゆらぎ解析を行っています。カオス解析の結果、ストレス状態の把握や疲労感などの情動変化も捉えています。

図2 バイタルサインの新たな観察技術の開発
高次元非線形時系列データの解析によって、近未来予知につながるデータ解析が可能となりつつある。このような新たな生体解析手法を用いた研究成果を英文誌に発表し、国際的にも評価を得た。Emiko Minakuchi, Takayasu Kawaguchi. et.al:Evaluation of mental stress by physiological indices derived from finger plethysmography. Journal of Physiological Anthropology, 2013. 32:17, doi: 10.1186/1880-6805-32-17
図2 バイタルサインの新たな観察技術の開発
高次元非線形時系列データの解析によって、近未来予知につながるデータ解析が可能となりつつある。このような新たな生体解析手法を用いた研究成果を英文誌に発表し、国際的にも評価を得た。
Emiko Minakuchi, Takayasu Kawaguchi. et.al:Evaluation of mental stress by physiological indices derived from finger plethysmography. Journal of Physiological Anthropology, 2013. 32:17, doi: 10.1186/1880-6805-32-17

今後の展望

  今後は、実用化に向けて、以下のような事項を進めていく予定です。
①「遠隔看護技術」を次世代の在宅看護の情報インフラとして基盤整備する。
②「遠隔看護技術」を、対象の個別性に合わせてセンシングすることを可能とするために、必要な各種デバイスの開発、疾患の状態に応じたプロトタイプの提案などを行う。
③「遠隔看護技術」の提供者に必要な教育プログラムの作成、それらを実施するための資格制度(看護情報学の専門家)の確立に向けた取り組みを実施する。
  これらは、安心・安全な新たな在宅医療の介入技術の提案となります。今後は、これらの技術の普及と多分野融合を進め、さらなるユーザビリティーへの取り組みが必要になるでしょう。そのための研究・教育拠点の形成を進めていく予定です。



関連する科研費

平成19-21年度基盤研究(B)「複雑系カオス解析を用いたバイタルサイン情報の測定手法の開発」
平成22-24年度基盤研究(A)「臨床応用に向けた遠隔看護システムの開発」
平成24-25年度 挑戦的萌芽研究「遠隔看護に用いるバイタルセンサーの臨床応用に向けた実証研究」
平成25-27年度 基盤研究(A)「在宅医療推進に向けた遠隔看護の実証実験」